富山発の「無花粉杉」

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 さあ、やってきましたよ、花粉症の季節が。

 この時期になると私はつくづく、まだ花粉症を発症していないことに感謝するばかりです。

 くしゃみ、鼻水、目のかゆみでつらそうな人を横目に、もし私が花粉症になったら落語どころではないだろうと戦々恐々。

 予防として、早くから注射を打ったり、錠剤を飲み続けたり、という話も聞きますが、国民の5人に1人が苦しんでいると言いますから、立派な国民病です。

 花粉を避けるグッズや方法がマスコミでも頻繁に流されていますが、決定打はありません。

 そんな中、私の故郷、富山県人がついに花粉症との闘いに近い将来終止符を打つべく開発した「無花粉杉」のニュースを見ました。

 20年前に偶然発見された、花粉を飛ばさない1本の杉の種子を使って大量生産する技術を開発したのは、富山県森林研究所研究員で農学博士の斉藤真己さん。

 20年前、大学院で共同研究が始まったのですが、斉藤さんは卒業、就職後も杉の研究に没頭、全国各地から優良品種の花粉330品種を取り寄せ、1種ずつ無花粉杉と交配させ、9年後についに「無花粉になる遺伝子」を持つ品種を発見。当初は学会も「たった1本じゃあね」と相手にしてくれなかったそうですが、「いまやり続けなければなにも変わらない。杉が年輪を重ねるように私も一歩一歩……」と地道な作業。ここが実に富山県民らしいところです。

 「50年後に、昔は花粉症というものがあって大変だったらしいよ」と言えるようになることを目指す斉藤さん。

 富山自慢の「呉羽梨」の冷凍技術にしろ、ノーベル賞受賞の田中耕一さんにしろ、コツコツ精神の成果です。

 なんでこういうタイプが多いのかなと思えば、富山県は日本で一番住みやすい県、持ち家率ナンバー1、おいしい空気に、海があって川があって山がある抜群の立地。そこからとれる新鮮で豊かな食材。

 こんな恵まれた環境で生まれ育っているからこそ、まだ見ぬ未来をめざしてコツコツした作業ができるのでしょう。

 脇目も振らず一歩一歩進んでいく気力は、富山の豊かさに支えられているのです。と、手前みそになりましたが、50年後、花粉症がほんとになくなることを祈りつつ、できれば一日も早くよい薬ができますように。

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# by woody-goody | 2013-02-15 15:06 | 社会

マイカー雪の日心得

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 テレビ局の廊下で、見知らぬ人の大きな話し声が。「昨日の夜、わざわざ近くのガソリンスタンドまで行って、履き替えてきたんだよ、スタッドレスに。それが朝起きたら子供が、パパ、雨だよっていうんだよ。ガッカリだよ」。気持ちはわかるけど、予想はずれてよかったじゃん。

 これを機会にもう少しそのままスタッドレスを履かせておいた方がいいと思うよ、とテレパシーを送っておきました。

 成人の日の大雪で懲りたJRは70%の間引き運転。雪は降らなくても、交通規制でかえって混乱。

 成人の日に、通常なら4000件だった出動要請電話が7万4000件あったというJAFは、5日は増員体制で準備。

 ところが今度は、肩すかし的な結果にマスコミはまた騒ぐ。

 故郷富山の友達は電話の向こうでまた笑います。「たかが1センチの雪で東京はなんしとるが?」

 たしかに、雪国を含めた全国にこの東京のニュースが流れているわけですから。

 年が明けて2カ月しかたっていないのに、雪について2回もコラムを書くことになるなんて。

 成人の大雪の日以来、私は会う人ごとに個人的にアンケートをとっています。「マイカーを持つあなたはスタッドレスタイヤをお持ちですか? 持たないとしたらなぜですか?」

 現時点で、総数32人に実施。内訳は、テレビ関係者12人、演劇関係者8人、落語関係者4人、一般人8人です。

 集計結果は、スタッドレスタイヤ自宅保有者2人、ガソリンスタンド契約者3人のみという惨憺たるありさまに。え、こんなもん?

 私のまわりに限っているので数字に偏りがあることは重々承知していますが、それにしても。

 私が雪国育ちだからこの結果に驚いてるだけ?

 スタッドレスを用意しない理由を問えば「東京ではめったに雪は降らない」「雪の日は車に乗らなければいいから」。

 でも、出かけた先で降られて、そろそろと車を走らせ、この1台のノーマルタイヤが道路の大渋滞を起こすんですから!

 そうか、こうなったら、道徳に訴えるより、取り外しやすくて保管場所がいらないアイデア商品が生まれればいいわけか。

 知恵者の多い日本、なんとかなりませんか。

 求ム、女性でも簡単に取り外しとセッティングができる雪の日仕様タイヤ装着グッズ。

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# by woody-goody | 2013-02-08 12:41 | 社会

改暦、明治の大英断

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 いよいよ明日!がパルコ1カ月公演の最終日。

 泣いても笑っても今日と明日の2回で終わり。

 50歳代、月日に比例して体力の変化を感じ続けた8年間でもありました。

 特に、今回の新作落語のテーマが月日の不思議を探った「旧暦」であったことも感慨を深くしている理由でしょう。

 毎年、正月なしでひた走ってきましたが、旧暦で言うと2月10日がお正月。沖縄では、1月1日よりも旧正月の方をよほど大事に祝っていると聞きました。

 私も、旧暦で年の初めを祝おうかな。

 自然の摂理にのっとった旧暦の方が体の自然にあっているはず。

 さあ、もう新作落語の内容を言ってしまってもいいでしょう、タイトルは「質屋暦」としました。

 明治5年12月3日をいきなり明治6年の元日にした政府の大英断、突然の旧暦、新暦、改暦に際して起こる庶民の騒動。

 これを実は毎日新聞社の社長さんが見に来てくださいました。

 で、こんな面白いお手紙をいただきました。

 「毎日新聞社は明治5年の2月21日に東京日日新聞として創刊しました。昨年は140年の感謝の集いも行いました。大隈重信は大正期の印象が強く、明治初期に赤字財政克服のための突然の改暦を断行したとは、頭から抜け落ちていました。今年も2月21日の創刊記念日には紙面で特集を組むつもりなのですが、太陽暦に換算すれば3月29日になるわけですね。また資生堂、国鉄、東京国立博物館も明治5年スタートですが、記念日は新暦か旧暦かで、だいぶ日にちが違ってきますよね」などなど。

 ありがとうございました。

 実は、しゃべっている本人自身も、当初は改暦に関してよくはわからず、日々皆さんに説明するうち徐々に腹に落ちていったという感じです。

 そうだ、改暦のことをもっと詳しく調べてもらって、2月21日創刊記念日第1面の「余録」に書いてもらうってのはどうでしょう?

 「質屋暦」を聴いてもらえなかった皆様にも、同じパルコ演出は無理ですが、どこかで聴いていただけたら、と思っています。

 ダイナミックな経済の変化の期待と不安が渦巻く中、明治5年に、もうびっくりの改暦を断行したという事実。これを見事に乗り越え、おおらかに生きてきた日本人。大いに笑って肩の力を抜いて今年を乗り切るはずみがつけば幸いです。

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# by woody-goody | 2013-02-01 18:21 | 社会

安部公房とわたし

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 1カ月間、どこへも行かずにずっと東京にいる恒例の1月が過ぎようとしています。楽屋に居続けの渋谷パルコ劇場公演も、8年目。

 まだこんなにあるのか、からもうこんだけしかないのか、に気持ちが変化する1カ月。

 今回も、新作を一席含めた全3席というプログラムですが、私が新作をつくるようになったきっかけは、本紙21日の夕刊でも紹介されていた、没後20年の作家、安部公房さんの存在があるのです。

 大学入学のために富山から上京、初めて見た演劇が、仲代達矢さんと山口果林さん出演、安部公房作「友達」だったのです。

 場所は、西武劇場。そう、今のパルコ劇場なのです。

 大学を卒業後に入った劇団の養成所の卒業公演も安部公房作「友達」。戯曲の意味がよくわからないまま演じた父親役。

 そして、落語家になって5年目、青山で安部公房作品の落語化という、とんでもないことを思いついたのです。

 ある日、玄関に「私は宇宙人なんですが」と若者が訪ねて来る「人間そっくり」と、ある日の夕方、いつものように会社から帰る道すがら、自分の体が、まるで毛糸がほつれていくように足下からほどけていく「赤い繭」の2席。

 面白い作品、ぜひ、読んでみてください。

 今もちゃんと理解したとは思っていないのですが、当時はもっとあやふやにしか安部公房の世界がつかめていなくて、ましてや文学作品を落語化するなどという無謀な試みがうまくいくはずもなく、多くのスタッフに迷惑をかけました。でも、でも、「志の輔らくご」が通らなければならなかった道だった、と思うのです。だって、あの不条理感を落語エンターテインメントとしてつくりあげられたとしたらすてきだとは思いませんか?

 いつかこの独特な世界を落語に入れ込めたらなあ、と。

 今回、落語家生活30周年を記念して、新作落語を中心に「志の輔らくご新作DVDボックス」を作りました。よくぞこれだけいろんな作品を作って来たなあ、と感慨ひとしお。でも、この裏には何十倍の失敗作品があるのです。成功へ導いてくれたこれらの愛しい作品群は陰の功労者。そっか、今度、失敗作品を集めてDVD作っちゃおうかなあ。自分のために。

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# by woody-goody | 2013-01-25 12:17 | 社会

スタッドレス装備を

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 いよいよ今日からパルコ1カ月公演、後半のスタートです。

 先日の成人の日は、あの大雪の中、はたしてお客様、お越しいただけるのだろうかという心配をよそに、ほとんどの方がそろってくださり、本当にありがとうございました。

 落語のマクラでよく言う事ですが、私ら、お客様がいなければ、ぶつぶつ言うただの変な人ですから。

 中には、交通機関の遅れで途中入場の方もいらしたのですが、その方々はロビーのテレビモニターで最初の一席をご覧いただいたようで。

 若干の来られなかった方々には、この日が休演日だったらよかったのに、と天候を恨めしく思ったことでした。

 終演後、スタッフが驚き感謝して言うには、公演に支障が出るようなクレームが一つも出なかったこと。

 ここに、主催者、演者とも厚くお礼申し上げます。

 現時点では、今回の公演内容をテレビ放送する予定は組まれておりませんが、この雪のトラブルもあったため、なるべく放送できるようにしたいと思っています。

 その際はこのコラムでお知らせいたしますので、よろしくお願いいたします。

 それにしても思うのは、都会の方々が雪道でよく転ぶこと。

 富山出身の私は、たとえ革靴で歩いていてツルンと滑ったとしても、空中でみごとに体勢を整え、着地ができます。えへん。

 「ああ、やっぱり俺には雪国富山の血が流れているんだな」と納得。

 富山の友達は電話で言います。

 「はっきり言って、あれぐらいの積雪で、あの道路マヒは異常だね。スタッドレスタイヤ、履いてないんじゃないの?」

 言われてみればそうです。12月になったら、雪が降ろうが降るまいが、都会はスタッドレスタイヤに履き替えると決めますかね。

 JAFにいつもの4倍の出動要請があったといいます。たった1台、ノーマルタイヤの車が横滑りしても道路は大渋滞になるのですから。

 痛い目にあったいま、この熱が冷めないうちに、自家用車をお持ちの方はぜひスタッドレスタイヤのご用意を! 私の車は12月になると必ずスタッドレスです。

 もちろん、人間用に雪道用の長靴も買いますとも、すぐに。

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# by woody-goody | 2013-01-18 18:32 | 社会

暦の歴史残す印刷物

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 あけましておめでとうの年賀状から、寒中お見舞いはがきを受け取るこのごろ。パルコ1カ月正月公演も8年目に入り、連日、渋谷で落語をしゃべっております。

 毎年新作を作るにあたってなんともうれしいのは、毎回、新しい出会いがあることです。

 一昨年は、偶然出会った千葉県香取市佐原にある「伊能忠敬記念館」のご協力を得て、4年越しで「大河への道」ができ、今年は、墨田区横網にある「新藤ギャラリー」のお世話になりました。

 いま私たちが普通に使っているカレンダーが、明日から変わる、となったらいったいどうなることでしょう。

 いつもやってくる12月がなくなっちゃったら。

 そんな暴挙がかつて日本で断行されたのです。

 明治5年に政府が改暦を発表、当時のてんやわんやをなんとか落語にできないものだろうかと思ったのです。

 その際、もし、当時の「旧暦」と「新暦」の現物があれば、話に信ぴょう性が出て面白さが倍増するんじゃないかと。

 調べるとありました。

 80年以上、製版と印刷を仕事にしてきた株式会社新藤コーポレーションさん。常に時代に先駆け、先進技術に取り組んできたこの会社の「新藤ギャラリー」が、区がすすめる「小さな博物館運動」に参加、そこに現物があったのです。

 世界最古の印刷物として知られる「百万塔陀羅尼 木製三重小塔」とその経文をはじめ、印刷機・版画絵など“印刷”にまつわる貴重な品々約30点を展示しているこのギャラリー。

 改暦のタイミングに発行された福沢諭吉の「改暦弁」も所有されており、社長さんから話を伺うことができました。

 印刷の原点を追求するうち、印刷の歴史を後世に伝えるために、昔の暦もなくてはならないものだと、古書店や骨董市に足を運び、長い間かけて集めたのだそうです。

 このおかげで今回の新作落語ができました。この場を借りてあらためてお礼を申し上げます。

 パルコ公演にお越しになれなかった方も、ぜひ「新藤ギャラリー」に足を運んでみてください。

 みんなで同じ「とき」を共有できている暦のおかげで、いかに物事がスムーズに進んでいることか。

 民間にもすごい博物館があるんですね。

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# by woody-goody | 2013-01-11 18:23 | 社会

大学生発、ネガポ辞典

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 日本語の豊かさを落語のまくらでずっとしゃべってきました。

 落語は、大半が会話によって成り立っています。

 その際に、自分を言い表すのに、英語なら、アイと言うしかないのですが、日本語には、わたし、あたい、ぼく、おいら、おれ、わし、せっしゃ、などがあり、相手を指す場合も、英語のユーの一言を、あなた、きみ、きさま、おまえ、てめえ、おい、などいろんな言い方があります。

 これらのどれを選ぶかによって、登場人物の関係性がすぐにわかるようにできているのです。

 上下関係、職業の別を常に意識せざるをえない日本文化がここに表れているのでしょう。

 会話の妙で言えば、「お前は集中力のない男だな」を「お前は分散力のある男だな」と言えば、言われた方も悪い気がしない。ちょっと無理がありましたかね。では、「外車を買ったんだ」と言われるより「輸入車を買ったんだ」と言われた方が、なぜだかむっとしない。輸入車には高級な感じを減らす役割があるんですねえ。

 人間関係をスムースに運ぶ知恵とも言えましょうか。

 こういうことを考えているのは年配だけかと思っていたら、札幌の女子大生が、言い方を変えるだけで気持ちがわかる「ネガポ辞典」(主婦の友社刊)を出版しました。

 いかにも世代が違うなあと思うのは、本になる出発点は、ネットにあったということです。

 放送作家の小山薫堂さんが審査員長をつとめる、通称デザセンこと「全国高等学校デザイン選手権大会」で第3位に輝いたデザイン(企画)をアプリとしてネットで広め、それが本になったという経緯。

 ネガティブをポジティブな表現に言い換える辞典です。

 本の帯から引用させてもらうと、「自分に甘い」を「自分に優しくできている」に。

 「変態」を「ある種の知識に精通している」に。「いかり肩」を「つくりがしっかりしている」などなど。とにかく中身を読み進めていくにつれ、笑う笑う。

 なにより面白いと思ったのは、東北芸術工科大学が主催、「高校生の視点から社会や暮らしのなかから問題・課題を見つけ、その解決方法を分かりやすく提案する」ための新たな社会デザインを考える大会デザセンが年に一度行われ、受賞アイデアがネットを通じて広まり、そこから本が生まれたという過程です。

 そうそう、おじさんはこれにも参りましたよ。

 「まわりくどい」は「過程を大事にする」だって。

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# by woody-goody | 2012-12-17 14:54 | 社会

笑顔の勘三郎さん

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 いつもいつも誰にでも満面の笑みで話しかけていた場面しか思い浮かばない、中村勘三郎さん。

 師匠談志と近しい間柄だった勘三郎さんに、私が初めてきちんとお会いしたのは昨年の12月28日。まだ1年もたっていないのです。

 ゴルフコンペで半日御一緒しました。

 耳の病気を克服、大好きなゴルフが再開できたお祝いの場でもありました。まだまだ本調子ではなかったでしょうに、豪快に笑い、それはそれは楽しそうなゴルフでした。

 勘三郎さんがいると、大きな花が咲いてるようで、あたりが一気に華やかになるんです。

 帰り際「これ、僕の携帯番号なので、よろしくね」とさっとメモを渡してさっそうと去って行く姿は、まさに粋な江戸っ子でした。

 3月18日、浅草で平成中村座公演を見て、楽屋にお邪魔すると、エネルギッシュな舞台の後にもかかわらず笑顔全開。でもやはり具合が悪かったのでしょう。「誰か、いい(体を診てくれる)先生知らない?」という会話になり、たまたま知ってた先生を紹介すると、後日わざわざ電話をくれて「あのね、志の輔さんに紹介してもらった先生、僕に合うみたいよ。ありがとう」と。

 がん治療で入院していた6月21日には、名古屋公演の楽屋に電話がありました。

 「ねえ、病室退屈なんだよね。医者がね、笑うといいっていうから志の輔さんのCD買おうと思うんだけど、どこに売ってるの?」と茶目っ気たっぷりに。

 「電話でまで笑わせなくていいんですよ」と答えてCDやDVDを送ると「ありがとう、毎日笑ってるよ」とお礼の電話。人を喜ばせるのが心から好きな人でした。

 7月9日、成城ホール公演のときは切ない電話。

 「実はね、今月27日に手術することになったんだよ。結構大きな手術みたいなんでね」と重大なことを努めて明るく話す声に、私が「先週、松本の公演に行ったとき、息子さんの勘九郎さんの『天日坊』の垂れ幕が街中にはためいていましたよ」と言うと「そうなの? せがれも頑張ってるな」と嬉(うれ)しそうに。その数日後、ワイドショーで「松本公演千秋楽勘三郎飛び入り出演」。舞台でお礼のあいさつをしてる姿が! 我が目を疑いました。

 当然、手術後も元気な声で電話がかかってくるのを待っていました。

 今も待ってます。

 日本中で「待ってました!」。

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# by woody-goody | 2012-12-07 15:59 | 芸能

ビートルズ、我が青春

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 高校時代、私はミュージシャンになりたいと思っていました。

 夢見る時代でした。

 今から思うと理解不能でしょうが、ギターを持つと不良になると固く信じられていた時代。

 ギターを買ってもらうなんてとんでもないこと。

 しかたがないのでアルバイトをして自力で入手したギターは、それはそれは輝いて見えました。

 そうまでしたのは、なんと言ってもビートルズ、なにはなくともビートルズ。

 私にとって、ビートルズがない青春時代なんて考えられません。

 こんな若者が日本に、世界に星の数ほど存在していた時代でした。

 そんな私のような人たちが集まったのは、渋谷駅前に新しくできたヒカリエ11階にある東急シアターオーブという劇場。

 もう終わってしまった公演のことを新聞に書いていいものかどうか迷いながら、すでに書いてしまっているわけですが、私が感動した「レイン」はビートルズ完全コピーバンドの舞台で、ブロードウェーでロングラン上演の日本上陸版です。

 2000人の観客とともに、ビートルズの楽曲の素晴らしさに再感動、切れ切れに覚えている英語の歌詞を口ずさみながら幸せな時間を過ごすことができました。

 観客は一人一人、あの時代の自分を振り返り、あのころの時間に浸っていたことでしょう。

 あまりによかったので、23歳になるわが息子に別の日に行くようすすめ、見た後「どうだった?」と尋ねてみました。「よかったよ、う〜ん」と、手放しで感動したわけでもない微妙な様子。

 いつもなら、「なんで、ビートルズのよさがわからないんだ」とむっとするところなのですが、私は「そうか、時代が違うものな」と父親らしく落ち着いて答えたのでした。逆に、ビートルズは俺のもんだ、俺の中で不滅だ、という感慨を深くしたのです。

 息子は正直です。それでいいのだと思いました。

 親ばかを承知で言えば、かなり感性は豊かだと思っている息子だけれど、親と同じに感動するわけがない。

 違う時代に生まれ育ったのだから。

 その落差に、かえって安心した不思議な感覚を味わいました。不思議どころかかすかな喜びすらわきあがってきたのはなぜなんでしょう。

 時代の差を喜べる年になったのでしょうか。

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# by woody-goody | 2012-11-30 12:38 | 芸能

師匠談志の一周忌

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 もう1年になるのですね、師匠談志がこの世を去ってから。

 21日から弟子総出演で「立川談志一周忌特別公演立川流追善落語会」が開かれています。

 世間は選挙で一色、と言いたいところですが、政党乱立で、いま一つ盛り上がっていないような。

 政治家にもなったぐらいに政治が大好きだった師匠なら「なんだいこりゃ、こんなにあったら選べないだろ。間に立川流も入れといてもわからねえだろうな。何票入るか楽しみだ」とでも言いそうです。

 思い出します30年前。入門3カ月した頃でした。

 師匠が親しくしている神奈川県の県会議員だったかの選挙応援について行ったことがあります。

 「志の輔、ついてこい」

 そう言った背広姿の師匠はさっそうとしていて素敵でした。裾の広がったベルボトムのズボンだったのには驚きましたが。

 選挙カーの後部座席に師匠と女性アナウンス係。そのまた後部座席に私。

 「東京から立川談志師匠も応援に駆けつけてくださいました」

 アナウンス係のしゃべりの間を縫いながら師匠は、窓から体を乗り出してマイク片手に「あ、談志でございます。神奈川の皆様、立川談志でございます。この候補はね、信用できます、1票入れていいです!」。

 そんなことをしばらく続けるうち、師匠はアナウンス係に「あんた疲れたろ、少し休みな。志の輔、お前、やれ!」。

 やりましたとも。

 師匠と私が交互にしゃべっているうち、師匠は言いました。

 「志の輔、いいか、俺の言葉と重ねるな。いいか、俺がしゃべり始めたら、途中でも、やめろ、いいな。言葉が重なると汚いんだ」

 話芸のコンビネーションのテクニックを伝授してくれる師匠。

 そのうちアドリブも入れるようになって来た私。「そちらのおじいちゃんおばあちゃんも、きたる投票日には……」とやってると「ばか野郎、志の輔、選挙期間中はどんなに年とってても、おとうさんおかあさんなんだ。選挙期間中だけは、じいさんばあさんはこの世にはいねえんだ」。

 これ、マイクのスイッチが入ってたもんだから運転手も通行人も大笑い。

 この1年、全国を独演会でまわりましたが、打ち上げで出てくるのは師匠談志の話ばかり。いったい誰の独演会だったの、と思うくらい。おかげさまで生前よりそばにいたような気がした追悼の1年でした。

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# by woody-goody | 2012-11-26 11:44 | 芸能


立川志の輔のエッセイ(毎週金曜日毎日新聞に掲載)


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