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少女の自由研究

 まだ梅雨入りしたばかりですが、必ず夏はやって来ます。

 そして子供の夏休みも必ずやって来ます。当然、夏休みの宿題も必ずやって来るでしょう。

 8月31日になって慌てる子供と親の姿が今から思い浮かぶのは、いくらなんでも早過ぎますが、ふと思い出したことがありました。

 15年ほど前の夏のことです。私は仕事であちこちへ出かけ、家にいることも少なくて、気にはなりつつ、8月も末になってようやく話す時間ができたので、軽い気持ちで「夏休みの宿題、もう全部終わったのか?」と聞いてみました。

 「パパ、自由研究だけが残っているんだ」との答え。

 だけ、って。

 「自由研究が一番大変なんじゃないのか? 時間がかかるだろうし、今から何をするか考えたって、間に合わないだろう」

 さあ、大変です。

 今だから白状いたしますが、息子と一緒にうーんと考えました。今から間に合う自由研究、本人がやれる簡単で早い研究……。

 周りで目についたのが、机の上に転がっていたゲーム用のサイコロ。これを見て、以前耳にした確率の話を思い出しました。

 サイコロを転がして、偶数と奇数の出る確率は、やればやるほど半々に近づいていくという理論。

 途端にサイコロを振り始めた息子。目が出るたびに偶数か奇数かを記録し表にしていきました。

 たしか、500回まで振っていました。

 結局、半々になったんだったかそうでなかったかは覚えていないのですが。

 梅雨入りに何でこういう思い出が頭によみがえったかと言うと、ラジオで紹介されていた少女の自由研究が、とても意表を突くものだったからです。

 やはり、夏の終わりに自由研究にとりかかれずにいた娘さんは、母親から毎日のように朝から晩まで「まだ自由研究できていないの? 早くしなさいよ」と言われ続けていたそうです。

 とうとう少女は自由研究のテーマを思いつきました。「一日のうちで、お母さんが『早くしなさいよ』と言うのは何時ごろが一番多いか。その次は……」と調べ上げ、円グラフにまとめたのです。

 すると学校で賞をもらい、新聞にまで掲載され、それを見たお母さんから叱られた言葉が「早く言いなさいよ」だった……とは、私のつけた落ちですが。

 久しぶりに素晴らしい感性の少女の、かわいい笑い話に、心の底から笑った私です。

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by woody-goody | 2013-05-31 11:27 | 社会

茂山千作先生、安らかに

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 大往生で、狂言の茂山千作先生がお亡くなりになりました。

 落語と狂言。一見、交流がなさそうに見えるでしょうが、そこは同じ笑いを表現する古典芸能として、狂言をとても尊敬しておりました。

 初めて京都御所の近くにある茂山家へ伺ったのは、2004年9月9日のことでした。

 というのも、この年の1月から「満月の会」と称して、青山にある能舞台で茂山家の皆さんと落語と狂言のコラボレーションの会を始めたからなのです。

 毎月、満月の日に開かれる会で、12月には念願かなっていよいよ千作先生をお迎えすることになったのです。

 「ガッテンいうのを、いつも見ていますよ」と、穏やかな語り口でおっしゃりながら、それはおいしそうにたばこをくゆらし、すてきな笑顔から楽しい話がたくさん飛び出しました。

 このときは「満月の笑い」という本の出版準備も兼ねていたので、京都御所の中庭で撮影させてもらった何枚かの記念写真は、一生の宝物になりました。

 千作先生は終戦直後、このままでは狂言は滅びてしまうと道具一切を軽トラックに積み込み、自らの運転で全国の学校を回り、子供たちに狂言の楽しさを見せ続けたそうです。

 息子や孫も含めて多くの弟子、後継者を育て、他のジャンルと積極的に交流、共演、狂言の「おかしみ」を伝え続けた方でした。

 千作先生が舞台に登場した瞬間から、客席と舞台全体が緩むのです。

 至芸とはこのこと。

 「幸せ」を運んでくる人。

 こんなエピソードも。

 出番が近くなった能楽堂の楽屋。千作先生演じる山伏役の衣装の一部が見当たらない。額につける「ときん」がないと、話が前へ進まない。さあ、大変、一同真っ青。

 すると、千作先生、インスタントコーヒー瓶の黒いフタに目をつけた。「誰か、これにひもつけてえな」

 なんと、ひもをつけたネスカフェのフタを額にくくりつけ、なにくわぬ顔で静々と登場。

 まさか、そんなものを額にくくりつけているとは思いもしないお客様。

 何事もなく狂言は、笑いのうちに終わりました。

 このとっさの機転、おおらかさ、しゃれっ気、ゆとり、何よりもサービス精神。まさに人間国宝。狂言の神様から選ばれた方。23日、93歳で旅立たれましたが、あの世でまたいたずらっぽい笑顔でこの世を見てらっしゃることでしょう。

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by woody-goody | 2013-05-24 12:17 | 芸能

音が天から降ってきた

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 落語会がホールで行われるようになったのは、いつごろからなのでしょう。

 そもそも日本の芸能は寄席や芝居小屋でお客様を楽しませていました。昭和30年代初期の日本で、芸術性の高い演奏会を開催するのにふさわしいコンサートホールは、まだ存在していませんでした。そこで1958(昭和33)年、「国際的な音楽祭も開催できるホールを大阪に」ということで誕生したのがフェスティバルホールです。

 音響特性に優れ、舞台に出た人からは「残響の長さだけではなく音がまろやかで豊か」「天井から音が降り注ぐ」とたたえられ、クラシックはもとよりロック、ポピュラー、ジャズ、能・狂言などの純邦楽を含め、あらゆるジャンルのアーティストらから愛される存在となりました。その音のよさは世界のトップアーティスト、レッド・ツェッペリンやディープ・パープル、マイルス・デイビスらからも絶賛されるほど。

 しかし、開館50周年を迎え、老朽化したため一旦閉館。工事に入り、2013年4月、超高層ビルとして生まれ変わった「中之島フェスティバルタワー」の中に、二代目フェスティバルホールが開館したのです。

 この柿落としのプログラムの中に、なんと「志の輔・談春祝祭落語会」を組み込んでもらえたのです。幕が開くと信じられないような音が、まさに降り注ぎました。落語家生活31年、落語会のカーテンコールを終えた後、ずっといつまでも舞台に居続けたいと思ったのは初めてでした。

 幸せだったのです。

 これは舞台だけではなく観客席も一緒にそうだったらしく、上の方、つまり後ろの席のお客様から「またやってね!」という声がかかりました。「そうなったら、あんたも来るんだよ」と答えて笑いに包まれる会場。このやりとりが観客のすべてに聴こえ、巨大でありながらアットホームな空気も醸し出す空間。

 この奇跡が実現したのは、談春君が日ごろから親交のあるさだまさしさんと談春君のおかげです。「神様のつくったホール」と形容したさださんが、気持ちよさをぜひ談春君にも、と旧ホールの閉館間際に談春独演会が実現し、今回の柿落としに私にも声をかけてくれたというわけです。

 ホールの方々、さださん、談春君、企画を立ててくれた共同大阪の皆さんに感謝しても感謝しきれません、一生の思い出をありがとうございます。

 関東の皆さんもぜひフェスティバルホール体験をお勧めします。

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by woody-goody | 2013-05-17 11:55 | 芸能

食材の神様に選ばれ

 久しぶりに、民放の特別番組の司会をしました。

 題して「生産者の顔が見える食材大賞」。

 ベテランである柴田理恵さんや山口良一さん、東MAX君らが、全国から選ばれた5人の生産者の、こだわりにこだわった食材作りの現場を訪問して、おいしさの秘密を伝えてくれる番組です。

 さらに、それらの食材を合わせて、イタリアンの巨匠・落合シェフに新しい料理を作ってもらおうという新企画。どんな番組でも全力投球の私ですが「今回も、やらせてもらってよかったな」の満足感いっぱいでした。

 特に印象的だった場面を一つご紹介しておきましょう。

 群馬の生産者Aさんは、前の職業で莫大な借金を背負い、自殺すら考えながら最期に一目お姉さんには会っておこうと出かけ、いろいろ話をするうちになぜか、本当になぜか突然何の脈絡もなく「豆腐」の2文字が頭に浮かび、豆腐店を始めてしまいました。

 大豆にこだわり、水にこだわり、にがりにこだわり、「何が何でもおいしい豆腐を」と地道につくり続けるうち、クチコミでそのおいしさが広まり、今や大人気商品に。

 そのほかの食材は「芯まで柔らかいキャベツ」「筋のないアスパラ」「脂身の甘い豚肉」などなど。すべてが本当においしかった。

 司会を終えて思いました。5人中4人が、転職して今の仕事を始めているのです。ここに、秘密の一端があるのでは。

 その世界での既成のルールに縛られず、自分なりの努力ができたから、そしてそれは楽しいことだったから、ではないでしょうか。

 では、なぜまるで違う世界にいきなり飛び込むことになったのか。きっと、この人たちは、それぞれの食材の神様に選ばれた人たちなんだ、と。

 つい先日、私の4番目の弟子「立川志のぽん」が「二ツ目昇進」いたしました。まだ、ただただ落語が好きで夢中でやっているだけという状態ですが、これから精進を重ね、「落語の神様に、お前だから選ばれたんだ」と、自他ともに思えるような日が来ることを秘かに願っています。

 志のぽん、落語家にしては変な名前です。

 何でそんな名前をつけたのかって?

 まあ、一度ご覧ください。ああ、と納得していただけることでしょう。

 おやおや、気がつけば二つも宣伝、春の陽気に免じてご容赦くださいませ。(「生産者の顔が見える食材大賞」の放送は19日午後2時からテレビ朝日で)

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by woody-goody | 2013-05-10 18:04 | 社会


立川志の輔のエッセイ(毎週金曜日毎日新聞に掲載)


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