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5月5日「百年目」

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 朝起きたら「何はなくともコーヒー」という生活をずっと続けてきた私も、ここ5,6年、濃い煎茶が飲みたいなあ、と思う機会が増えました。

 だんだんと、かつて見た爺さん婆さんのライフスタイルに近づいているということですかね。

 それとも、お茶の微妙な味の違いが分かるようになったと考えればいいのでしょうか。

 前々から気になっていたのですが、コーヒーや紅茶のカップには取っ手があるのに、日本の湯飲みにはありません。

 熱湯を注ぐコーヒーや紅茶と違って、せっかく100度に沸かしたお湯を、わざわざ60〜80度にさまして急須に注ぎ、茶葉をゆっくり開かせる日本のお茶。

 人にいれてもらったお茶。湯飲みから伝わるのはお茶の温かさ、ぬくもりだけではありません。

 ゆったりした時間の中に、人の気持ちが入っているのです。

 夏も近づく八十八夜、今年は5月2日だそうです。

 春から夏へ準備をする節目の日なのですが、今年はまだまだそんな気にはなれない、この寒さ。

 八十八夜は茶摘みのタイミングだけではなく、種まきの大事な目安にもなっていたようです。

 「八十八」の文字を組み合わせると「米」の字に。農業に従事する人にとって、いかに特別の日なのかがこれでわかります。

 落語の中にはお茶がたくさん出てきます。

 私の演目だけでも「茶の湯」や「江戸の夢」や「百年目」があります。

 嗜好品が少なかった時代に、お茶をいれて飲むというのは、生活の中での重要な一区切り、句読点のようなものだったのでしょう。

 今年のパルコ公演の演目の一つが「百年目」でした。この中に、店の大旦那がお茶をいれてやりながら、番頭さんにじっくり話をするシーンが出てきます。

 日ごろは忙しくてゆっくり相対したことのなかった2人が、あることを契機に気持ちを通い合わせる場面です。

 お茶があるからこそ、2人の間にゆったりした時間が流れ、来し方行く末を見据える大旦那の気持ち、それに呼応する番頭の気持ちが混ざり合います。

 実は八十八夜の3日後、5月5日午後6時半から、WOWOWで「志の輔らくご in PARCO 2013」と題して、もう一席「質屋暦」とともに放送になるので、どうぞお楽しみくださいませ。

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by woody-goody | 2013-04-26 12:40 | 芸能

俳句で遊ぶ人たち

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 いま、俳句人口は相当なものと聞いております。

 与えられた季語を入れて、制限時間内に一句詠むなんて、私ならとてもじゃないけど、「もし浮かばなかったらどうしよう」という不安が先にたってしまいますが、こんなことを20年も続けている句会があります。

 その名も「駄句駄句会」。

 この句会のメンバーがすごい。山藤章二先生が宗匠をつとめ、放送作家の高田文夫先生がいるかと思えば、作家の吉川潮先生、落語家では兄弟子の立川左談次師匠や林家たい平さん。俳優でもありテレビでは鋭いコメントを発する松尾貴史さん、ジャズ歌手笈田敏夫の息子の島敏光さん、短歌人の藤原龍一郎さん、師匠談志とも友達だった野末陳平先生。なぜかいつもペンギンを抱え写真を撮る、実はガラス屋の主人高野ひろしさん、寄席文字書きの橘右橘さん、落語会をプロデュースする木村万里さんら。

 知り合いらが参加する句会のことは、ちらほら聞いてはいて、「実際はどんなことをやっているんだろう」と思っていたら「駄句だくさん」(講談社刊)という本が贈られて来ました。

 右ページには、山藤章二先生の手で色紙に書かれた一句。左ページにはその句を読んだ感想を、句会同人が「ああだ、こうだ」としゃべっているのですが、これがとてつもなく面白い。

 話芸の達人たちが、句にツッコミを入れるとこうなるのか。

 ページを開くと、最初に目に飛び込んで来るのは「落花生 老婆の口に 三時間」。

 兄弟子左談次師匠の、何ともユーモアにあふれた一句です。

 この句を「名駄句だ」と宗匠がほめれば、すかさず「メイダク防止条例」と、ダジャレを飛ばす高田先生。「この老婆は死後かも」「なら、歯じゃなく土手でかんでいたのでは」と、会話がはずんでいきます。

 全編この調子で、「ああ、なんて豊かな人たちなんだろう」と心底、羨ましくなりました。それぞれの分野で、ちゃんとした仕事をしている一流の人たちが時間をやりくりして集い、ばかを言い合う。まるで落語の熊さん八つぁんのように。

 そうか、「俳句と聞いて、風雅を詠まなきゃ」と肩肘を張ることはないんだなぁ。句を媒介にして、遊べばいいんだなぁ。一気に俳句の敷居が低くなりました。

 楽しきゃいいんだ。「老後」じゃなくても、こういうゆとりのある時間を持ちたいものです。

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by woody-goody | 2013-04-19 13:23 | 社会

くまモン増殖中

 新作落語は別ですが、私たち落語家が演じる古典落語には著作権がありません。師匠や先輩からそこそこのお礼で教えてもらうことができて、それを無料で自分のネタの中に入れるというわけです。

 作者が誰だかわからないということもあるでしょうが、このおかげもあって落語が300年以上の歴史を保ってこれたのでしょう。

 先日、2年ぶりに熊本県を訪れました。

 空港では、あの有名なゆるキャラ「くまモン」が迎えてくれたまでは「そうか、熊本県はくまモンが有名なんだね」と思い出す程度だったのですが、行くところ行くところ、くまモンだらけでした。店の前には「いらっしゃいませ」くまモン、店内では名所ポスター案内くまモン、ビールを頼めば、コースターくまモン。

 空港、駅、土産物屋、タクシー、バス、ETCと町中くまモン。ふと、こんなにくまモンキャラクターを使ったら、払う方は著作権がばかにならないだろうな、大変だな、と他人事ながら心配をしていたら、なんと、このくまモンを使用しても著作権が発生しないんだそうな。

 びっくり。

 どれだけ見ていても飽きない愛らしさに立ち止まり、気がつけば、ストラップやクリアファイル、ゴルフのアイアンカバーなど、つい購入している自分がいました。

 こんなに人気が広まったのには、かわいらしさ以外にも原因がありました。

 なんと、熊本県の許可があれば、個人または企業でロゴとキャラクターを無料で使用すること(個人で楽しむ範囲であれば許可は不要)ができるんだそうです。

 「発表後しばらくはキャラクターを使用した商品開発などは不可だったが、著作権を熊本県が買い上げることにより、2010年12月24日以降は携帯ストラップやぬいぐるみなどの商品開発・グッズ販売においても県の許可を得た上で(当面の間は)無料で使用可能に。ただし、海外の企業や海外での販売には許可を与えておらず、許可を得た場合も必ず許可番号を示さなければいけない」とのこと。

 くまモンキャラのかわいらしさに加えて、このゆる規制こそが、くまモンを県の、いや日本中にファンを増やした原動力に違いありません。

 「著作権は縛るだけのもの」と思ってましたが、緩めると、こんな効果も出るんだと思えば、著作権は、さじ加減が肝心なんですね。
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by woody-goody | 2013-04-12 14:54 | 社会

慣れは禁物、マイワシ化

 毎年恒例今年6年目のベトナム公演から無事に帰ってまいりました。

 さあ、いない間に日本でどんなニュースが流れていたのかと、たまった新聞やメールをチェックしていると、ありました。久しぶりに笑わせてもらいました。

 記事によると、名古屋水族館の高さ5m、幅14mの黒潮水槽の中を、エサを求めて群れで渦状になって泳ぎ回る、売りになっている「マイワシのトルネード」に異変が。

 黒潮が流れる海の沖合を再現するためにサメやマンボウも一緒に泳がせているのですが、岩陰もない沖合では、マイワシは大きな魚から身を守るべく群れになって泳ぎます。それを再現して見せるというこの水族館の目玉です。

 一瞬にして一つの大きな生き物のように一斉に泳ぐ方向を変える様は、それは見事です。

 圧巻の風景に、思わず、ほーっと時間を忘れます。ところが、最近、群れを離れて、1匹で泳ぐマイワシが現れ始めたそうなのです。そりゃ、1匹くらいそういうのだっているだろうさ、と私なんかは思うのですが、プロの水族館職員は考えました。なんで、はぐれるのが出るんだろう?

 どうせ食べられないしと安心しきっているのではないか、水族館とはいえ、自然と同じ環境を維持するために、天敵のマグロ15匹を投入。するとシャキッとしたらしいのです。

 かわいそうという声もありましょうが、なぜ、私が笑ったかというと、私もベトナムでシャキッとしたからなのでした。

 というのも、日本の各地で落語会を行うときは、ほぼ開演時間1時間前に楽屋入りします。

 前もって、会場スタッフが、喋りやすい音響、照明を作ってくれているのを、簡単にチェックするだけでいいのです。

 ところが、海外では、あたりまえですが、落語を見たことも聴いたこともないであろうスタッフ相手に、落語のための舞台空間を作る指示を出すことから始めなければなりません。現地の言葉に通訳されてはいてもこちらの注文が伝わっているのかどうかも不安で、その長時間のストレスたるや相当なものがあります。

 開演間際にようやく舞台を完成させた弟子たちはくたびれきって高座をつとめることになりました。

 いやはや、落語家である私も日本の良い環境に慣れきって、毎年この新鮮な変化のおかげで、「これじゃ俺もマイワシ同様だ」と大笑いしたのでした。
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by woody-goody | 2013-04-05 14:52 | 社会


立川志の輔のエッセイ(毎週金曜日毎日新聞に掲載)


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