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伊能忠敬記念館

 ご来場いただきました皆様、本当にありがとうございます。今年の下北沢本多劇場10回公演「大河への道」が無事終わりました。

 全国をくまなく歩き回り、初めて日本の地図をつくった男の新作落語でした。

 ちょっと想像してみてくださいな。

 地図がない時代ってどんなだったんでしょう?

 地球の大きさを知りたいという壮大な好奇心から、平均寿命がわずか50年という時代に、55歳から歩き始める伊能忠敬ってどんな人?

 地元では、ちゅうけいさんと親しみを込めて呼ばれ、実直を絵に描いたように商売で家産を増やし49歳で隠居の身に。普通ならここで人生をまとめて余生を静かに過ごすところなのに、どうしてもやりたかったことを実現させるべく第二の人生にとりかかるのです。

 尋常じゃありません。

 71歳までに17年間かけて4000万歩を歩き切ったのです。

 歩きながら、彼の頭の中には着々と日本列島の姿が浮かび上がっていったことでしょう。

 毎日、歩くたびに明らかになる日本の形。

 なんとスリリングで冒険に満ちた旅だったことでしょう。

 私の落語は、この男をNHK大河ドラマに採用してもらおうと、県庁のプロジェクトが立ち上がるところから始まります。

 私がこの物語をつくりたくなったのは、佐原にある伊能忠敬記念館に立ち寄り、実際に忠敬さんが使った測量器や地図を見て受けた衝撃、感動からでした。

 約200年前に果たされた野望の裏にある孤独と喜び。

 この夏、お子さんの自由研究テーマに、親子そろってこの伊能忠敬記念館に行かれては? 思ったより簡素な白壁瓦屋根のかわいい記念館です。

 私が5年前に訪れたときの感動をご一緒に。

 そこでたぶん1枚の申込用紙に目が留まることでしょう。

 その名も「伊能忠敬NHK大河ドラマ化を目指す署名運動」。

 2018年は没後200年、この節目の年に実現させようという、推進協議会が本当に立ち上がっているのです。瓢箪(ひょうたん)から駒ならぬ、新作落語から本物のプロジェクトですね。

この夏、ロンドン・オリンピックが始まり、世界のすごい人たちをいっぱい目にすることでしょうが、黒船が来る以前の日本には、こんなすごい人がいたという事実も知っておきましょう。教科書で数行でまとめられてしまうには、あまりにも残念な、偉大な冒険家・天文家・測量家に違いないからです。

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by woody-goody | 2012-07-27 12:03 | 社会

梅雨明け宣言!したい

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 今年の梅雨明け宣言は、下北沢本多劇場公演の初日でした。

 「関東全域が梅雨明けした、と思われる」と歯切れの悪い、若者言葉で言うなら、ビミョーな宣言でした。

 こんな言い方になる背景には、きっぱり宣言して、宣言後に雨が降り続き、ほんとはまだ明けてないんじゃないの、と突っ込まれた経験があるからでしょう。

 また、逆に「なん日前の○月○日に、梅雨は明けておりました」と後出しジャンケンのような梅雨明け宣言もありました。

 早過ぎても遅過ぎても、なにかは言われる気象庁。

 気象庁勤めの職員もおかみさんに質問されてるのでしょうねえ。「ねえ、今年はいつごろになりそう? 長袖はクリーニングに出していいかしら?」

 ことお天気になると正確を期したい夫は、気楽には答えられません。

 いや、こういうことも考えられる。日夜、天気に敏感になってる気象庁職員の家では、お天気の話はタブーとされているかも。

 「お父さん、今度の運動会、晴れる?」

 「シッ! 駄目よ。お父さんにそんなこと聞いちゃあ」

 「あ、そうだった、ごめん。友達に聞いてくれって言われたもんだからさ」

 板挟みになる子供。

 単なる落語家の妄想ですがね。

 雨は雨で、農作物には恵みの雨。大切な梅雨ではありますが、子供の頃の梅雨明け宣言を懐かしく思い出します。

 宣言が出た! さあ、プール解禁だ!と友達と連れ立っていそいそ出かけたものでした。

 あのときのうれしさが体に残っているので「明けたと思われる」と聞くと、そうなのか、思われるだけでまた梅雨にもどることもあり得るのか、と気持ちの切り替えができません。

 要するに、気象庁がきっぱり宣言できないくらい、天候が不安定になってきたということなのでしょう。

 思い出すと言えば、まるのままのスイカも見かけなくなりました。

 夏と言えば、近所でスイカを買っておけの水で冷やし、みんなでわいわい言いながら、種を飛ばし合ったっけ。

 近所のおじさんが声をかけてくれます。

 「スイカ、あるよ」

 「え、じゃあスイカ割りはいつ?」

 「夕方、5時くらいかな」

 「じゃあ、僕が行くまで待っててね!」

 思い出す夏の日。地域がつながっていました。セミ、入道雲、打ち水、すだれ、風鈴、蚊取り線香、夏を呼ぶ梅雨明け宣言が堂々とできる落ち着いた気候になりますように。

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by woody-goody | 2012-07-21 14:41 | 社会

心しみる多喜雄節

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 民謡歌手の伊藤多喜雄さんに初めて出会ったのは、私が落語家になってすぐの頃、30年前のことでした。

 演芸プロデューサーの木村万里さんの紹介でした。なんで、俺、民謡歌手と会うんだろう?と思いながら、指定された新宿の居酒屋に行きました。

 初対面にもかかわらず、乾杯とあいさつもそこそこに、私は、それまで抱いていた民謡に対しての失礼なイメージをしゃべり、多喜雄さんは多喜雄さんで、落語に対するつまらなさについてかなりのことを述べました。

 早い話が、あまりいい思い出の初対面ではなかったと記憶しています。

 それが、本牧亭の独演会ゲストや、二つ目昇進披露独演会の打ち上げ、真打ち披露パーティー、月に1回10年続けた新宿の独演会ラストのロビーで歌ってもらったりと、なにかにつけてお世話になってきました。

 御本人いわく「民謡界のアウトロー」として、常に斬新な民謡を世に送り続け、紅白歌合戦には2度出場、見事な多喜雄節を聴かせてもらいました。

 先日、その多喜雄さんと、岩手県の野田村と久慈市でライブを行ってきました。

そこは、やはり東日本大震災で大きな被害が出たところで、多喜雄さんのお姉さんの嫁ぎ先という縁で、震災以来ずっと支援を続けているそうです。

 昼に野田村、夜は久慈市で、大勢の方が多喜雄さんの民謡に酔いしれました。

 圧巻は、会のエンディングで多喜雄さんのソーラン節にあわせて、地元の中学校の生徒50人が踊る「よさこいソーラン」。

 ステージの袖で見ていると、涙で彼らの姿がぼやけてきました。

 そのあと、休憩をはさんで落語を。普段と違うここでしか味わえない格別な笑いの波が押し寄せました。

 その笑いの渦の中に私自身もいることが本当にうれしかった。

 一日が終わり、打ち上げで「たいしたものはございませんが」と出された地元で取れた新鮮な魚の数々も格別。

 移動の際に主催者の方がこっそり教えてくれた多喜雄さんの支援ライブ、「えっ!」と驚くような救援物資のこと、書きたいけれど、たぶん、多喜雄さんはのぞんでいないと思うので控えます。

 つくづく、こういう心の底からわいてくる思いが多喜雄節の元になっているのだなあと思いました。

 「国民の生活が第一」とあたりまえのことを声高に叫ばなきゃならないような政治家の皆さんも、どうぞ思う存分、頑張ってください。

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by woody-goody | 2012-07-13 11:45 | 芸能

明るい病院便り

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名古屋公演で、志の輔版「中村仲蔵」(歌舞伎役者が苦労の末に大成功をおさめるという落語)を高座にかけようと、長唄連中と打ち合わせの時でした。携帯が鳴ったのは。

 「ねえ、医者がね、笑った方がいいって言うからね……」

 なんと、中村勘三郎さんの声でした。

 「志の輔さん、あなたのCD、どこに売ってるの?」

 先日、食道がんが発覚したばかりの人の声とは思えない。

 「すぐにありったけをお届けいたしましょう」と答えたのはもちろんのことですが、声もしゃべり方も、相手を気遣いながらあくまで陽気に振る舞う舞台人、歌舞伎の現在も未来も背負った男の存在感をあらためて感じました。

 がんだとわかったときのコメントも「誕生日会でどんちゃん騒ぎをした後のことなので、私自身も大変に驚いちゃいました」と、さわやかと形容したいような軽くて明るいものでした。

 食道がんは早期発見だったとはいえ、手術に立ち向かう勇気は大変なものだと思います。とにかく年内いっぱいは休養とのこと。

電話の後、ちょうど、歌舞伎で裏方をつとめる鳴り物の方々と、勘三郎さん話に花が咲きました。平成中村座ロングラン公演の大成功をおさめた後の誕生日会、喜びが目に浮かびます。そのどんちゃん騒ぎに参加していたツケ担当の人もその場にいて、勘三郎さんのすごさにみなでガッテンしたのでした。

 勘三郎さんより少し年上の高田文夫先生は、さらに上をいく明るさ。

 「二カ月間の御無沙汰でした。覚えていますか? エスパー高田です」。お休みのラジオ番組で、リスナーに向けて読み上げられたメッセージです。

 「ちょいと談志師匠の最後を見送りに行ったら、深追いし過ぎて、松村君と同じ心肺停止です」

 リスナーを裏切らないこの姿勢。

 「病気ぐらいでは人間変わりません」

 「毎日笑える幸せをかみしめながら、リスナーと二人三脚で、いただいた大切な命を大事に使ってまいります」と締めくくり、スタジオの松村君と西田敏行さんに「俺たちより元気なんじゃない?」と言わせるほど。

 年内復帰を約束しながら、リスナーやスタッフやまわりに対する気遣いの手紙に笑いながら心丈夫になりました。

 そうそう、勘三郎さんも「談志さん、俺を呼び過ぎだよー」と。

師匠、そちらで寂しいのはわかりますが、仲間を呼ぶのはまだまだお待ちくださいませ。

 さあ、来年は復帰復帰で大にぎわいの年になりますよ。

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by woody-goody | 2012-07-06 14:26 | 芸能


立川志の輔のエッセイ(毎週金曜日毎日新聞に掲載)


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