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「気」仙沼の「気」は消せん

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 朝7時、東北新幹線の一ノ関駅に降り立つと、地元のコーヒー屋さんが車で迎えに来てくれていた。この方のお店もまるごと津波で流されてしまったが、車中、努めて明るく話す様子に、外から来た者への気遣いが感じられて温かい気持ちになる。

 さあ、いよいよ「さんま寄席」のスタートだ。

 約1時間半かけて気仙沼に到着。

 海岸から何キロもあるのに、津波で運ばれた大きな遠洋漁業の船が横たわっているのを見ると、覚悟していたとは言え、ぎょっとなる。

 こんな大変な目にあった方々の前でいったいどんな落語をやればいいのだろう、と気持ちがどうにもあがらない。

 と、車の外をみやると会場への案内プラカードを持った東京から来た若者が町の角ごとに立っている。

 初めて気仙沼に降り立った彼らが、後から来る1000人のお客さんがスムーズに会場にたどりつけるようにと頑張っている姿に、この一瞬で私にスイッチが入った。

 主催者糸井重里さんとのコタツトークをはさんで、私の落語2席の後に、地元の方々による大漁祝い歌「どや節」が披露された。

 自分で言うのもなんだが、本当にいい落語ができた。

 これはとにかく、町中にあふれていた「気」の塊のおかげだと思う。

 主人公は誰でもない、気がついたらみんながつながってできあがったいい時間と空間。企画をした糸井重里チーム、現場の運営をしてくれた気仙沼の人たち、東京から訪れた1000人以上の人たち。

 名目は観光でもなんでもいい、とにかく被災地の現状を見てほしい、そしてそれを伝えてほしい、という「気」のすごさ。

 なにかしたいという潜在的な気持ちをこの会をきっかけにつかみたいと集まった人たち。三位一体という言葉があるけれど、まさに、これほど「気」が充満してそろった会場で落語がやれたことを幸せに思います。

 沖にいる船が、陸にカツオの収穫高を知らせる「大漁唄い込み」。2番から歌えば200本、3番から歌えば300本、これに合わせて陸では、沸かすお湯の量を決めたと言います。20人ほどの歌声を聴きながら手拍子する糸井さんと私。熱いものがこみ上げる。「気」ってなんだ?と広辞苑を引いたら「精神の盛り上がり」とあった。そうだろうそうだろう、「気」仙沼だしな、と思った一日でした。

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by woody-goody | 2012-03-30 17:31 | 列島各地

ベストな解凍、氷水

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 そもそも食料は、とれたその場所でそのとき食べるのが基本でした。が、時代が進むにつれ、どんなに遠く離れた場所でも、ときを経ても、同じように食べられればいいな、という願いをかなえるべく、物流と保存技術が発達しました。

 距離と時間を克服する方法、それは冷凍技術。おいしさそのままを食卓へ届けるために、冷凍技術の進歩にはめざましいものがあります。それに比べて解凍技術はどうでしょう。

 高価なステーキやマグロを冷凍でいただいたのはいいけれど、解凍方法を間違ったために台無しにしたという経験をおもちの方も多いことでしょう。

 冷凍庫があるのに、なんで解凍庫がないんだろうと常々思っていました。

 その解凍庫が発売されない理由がわかったのです、先週放送になった私が司会をする番組で。御覧になれなかった方もびっくり!

 キーワードは「解凍とは加熱することにあらず」。

 つまり、温度をあげていけば解凍になるという勘違いが、解けるときに食材から出る汁、いわゆるドリップをたくさん出して一緒にうまみも逃がしてしまってるというわけなのです。

 結論を言いましょう。

 水道を流しながらの「流水方式」も、ただただ放置しておく「自然解凍」も、冷凍庫から移す「冷蔵庫解凍」も、どれもベストではありません。

 ベストアイテム、それは「氷水」です。

 そもそも解凍というのは、食材を「マイナス3度から0度の間にする」とおいしくなる。これは食材が凍り始める温度、食品業界では「氷温(ひょうおん)」と呼ぶそうです。

 たとえばカツオの氷温はマイナス2度。

 水が凍るのは0度。

 なので氷水につければほどよい温度に解凍されるというわけです。

 東京海洋大学の食品冷凍学研究室の報告では、この方法だと、冷蔵庫解凍よりスピードは速く、ドリップも少ないという驚きの結果が出ています。

 ここでおわかりでしょう、解凍庫が発売されないわけが。

 だって、「夢の解凍庫、新発売」と銘打った家電製品のフタを開けてみたら、ただ氷水が入ってただけってことになりますもんね。

 ぜひ、氷水で作った自家製解凍庫でおいしい解凍を試してみてください。


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by woody-goody | 2012-03-24 15:39

鳴砂から環境問題へ

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 これ、お土産、と砂の入った小瓶を渡された方、きっといらっしゃるでしょう。

 ふってみると、小さな音、このかすかな加減がなんとも言えなくて。

 国内、海外にもある鳴砂(なきすな、なりすな)は、砂の上を歩くとキュッキュッと鳴る砂を言います。

 二条城のように、侵入者を察知するために歩くと音が鳴る、鳴き廊下を作った城主の知恵にも感心したことがありますが、こちらは天然で鳴る砂。都会の喧噪(けんそう)からは想像できないわずかな音に耳を澄ます生活に憧れます。

 砂が鳴る詳細なメカニズムはまだわかっていないようなのですが、富山県の私立藤園学園龍谷富山高等学校1年の山本良太君が、鳴き砂から環境問題にまで言及し「地球だって笑いたい」という論文にまとめ文部科学大臣賞を受賞しました。あまりに素晴らしいので、ここにご紹介させていただきます。

 「やった! 成功だ! 僕の手の中で、砂がキュッキュッと鳴いた。まるで『くすぐったいよ』って笑っているようだ。この『鳴き砂』を瀕死の状態から生き返らせるのに、実に1年かかった。環境汚染の深刻さを実感してあぜんとした。鳴き砂とは自然界に普通に存在する砂だが、鳴かなくなる、いや鳴けなくなるのは、人間の出した汚れのせいだ。それも工業排水や、重油流出事故による海水汚染以上に、一般の人が、何気なくポイ捨てしたプラスチックゴミが、鳴き砂を絶滅危惧の危機に陥れているというのだから驚きだ。海に行くと、よくトレーだとか、使い捨ての弁当箱とかが砂浜に落ちているのを見た事があると思う。それがプラゴミである。自分は海でそんな物をポイ捨てして来なかった、だから関係ないと考えているとしたら、それは認識が甘すぎる。もう一度プラゴミに着目してほしい。洗剤のボトルとか洗濯バサミとか、普通わざわざ海に持って来て捨てる物ではない。じゃあどこから来たのか。市街地や海から遠く離れた山中で、不用意に捨てられた物がほとんどだ。ゴミは風に飛ばされて川に入る、川に流されて海に出る、そして海流に乗って長い旅をして、どこかの海岸に打ち上げられる……」

 鳴き砂から海に国境はない、環境汚染問題に気付く良太君。16歳にしてこの着眼点、文章のクオリティー、おじさんは恐れ入りました。ノーベル賞を受賞した田中さんに続く故郷富山県の誇りです。


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by woody-goody | 2012-03-16 12:53 | 社会

ユーモア力

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 落語家になる前は、広告の仕事をしていました。そういう御縁もあって、元「広告批評」編集長、現在は松山市「子規記念館」名誉館長でもある天野祐吉さんに20年以上、お世話になっています。

 天野さん発案の、子規記念館で行われる「道後寄席」も今年で9年目を迎え、先日、そこに出演させてもらいました。

 松山は、30年前に昨年他界した師匠立川談志と初めて一緒に飛行機に乗り、愛媛大学学園祭に来た思い出の土地でもあります。

 先日たまたま手にした週刊誌の巻頭グラビアのコラムで、天野名誉館長が、正岡子規没後110年の今年、今の日本に必要なのは子規のユーモア精神なんじゃないかと書かれていました。

 34歳という短い生涯を終えた子規が、病に伏して書き残した「病牀六尺」「仰臥漫録」には暗いところがなく、突き抜けたユーモアが笑いを誘います。

 たった六尺の病床が彼の全宇宙。苦痛で動けず泣きもし叫びもしたい境遇で子規が書きつづったのは、自分を、ものごとを、客観的に見ること。これができて初めて前へ進める。辛すぎる状態から抜け出すのを助けてくれるユーモア。

 天野さんは書きます。「人生で大切なのは、いかに長く生きるかではなく、いかに楽しく生きるか」だと。

 宮城県南三陸町の避難所では、毎日、被災した人たちがつくった川柳や短歌が読み上げられていることをニュースで知りました。

 この川柳大会を発案した旭ケ丘地区区長の柴田正廣さんは「悲しみをいつまでももってたらまずい。笑ってもらえるような川柳もいいかな」と。

 被災当初は「水運び 筋肉つけて 腕自慢」「蓮舫に 負けぬ物資の 仕分け人」という具合に肉体的な辛さや切羽詰まった状況を笑いながらいなす句が生まれました。

 たくさんの句を寄せ続けている須藤春香さんは、津波でお母さんを失い、御主人と暮らしていた自宅も流され、五、七、五に思わず思いを込めました。

「大津波 みんな流して バカヤロー」

 1年後にはこんな句を。

「すっぴんで 外に出る日が 来るなんて」

 これを詠んだとき、みながクスッと笑ってくれたのが嬉しかったそうです。

 ユーモアの力がもっともっと2年目の被災地に浸透しますように。


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by woody-goody | 2012-03-09 13:07 | 社会

東南アジア落語会

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 先週、ベトナムのホーチミン、シンガポール、タイのバンコク、三カ国11日間の長旅から帰国しました。

 毎年のことながら、現地の日本人会の皆さんが力を合わせて一から手作りで開催してくれ、これぞ落語会の原点とも言える素朴な情熱が感じられてうれしくなる会でした。

 昨年末の師匠の他界、年明けの正月一カ月公演でヘロヘロになったところを、主催者さんや現場のスタッフ、お客様の笑顔に助けられ、なんとかのりきってほっとしたのもつかのま、海外へ。

 不況はいずこも同じですが、昨年のタイの大洪水により日本工場の閉鎖が相次ぎ、現地の方の苦労はいかばかりか。

 とある日本のお菓子メーカーの工場も水につかって生産中止、スーパーの棚に商品を並べることができなくなりました。

 けれど、そのままにしていると、棚のスペースが他のメーカーにとって代わられてしまいます。一度スペースを明け渡してしまうと、なかなか元にはもどらない。今度は、商品があるのに棚がないという事態になります。

 そこで苦肉の策がとられました。日本の本社で作った商品を輸入して現地スーパーの棚に並べているのだそうです。

 当然のことですが、企業が東南アジアに進出したわけは、人件費を含めたコストが安くすむからです。そこで生産した商品を現地で販売したり、日本に逆輸入して利益を生み出してきたのですが、今回のように日本で生産した商品をタイへ輸送、関税をかけて販売していたのでは完全に赤字。

 赤字でもスーパーの棚は守り抜かないと、と海外で生きる企業人の力強い言葉。

 そして、大洪水もなんのその、腰まで水につかりながら、魚を釣り始めるタイの方々の、どこかユーモラスでさえある前向きな姿勢。

 そんなたくましい方々に支えられて無事成功に終わった落語会の打ち上げで出てくる師匠立川談志の思い出話の多いこと。「談志師匠は得体の知れないものでもなんでもよく食べられましたよねえ」など。ベトナム傘をかぶった笑顔の師匠談志の写真を持ってくる人。どの国へ出かけても、師匠談志は強烈な印象を人々に残していました。

 34度のバンコクから日本に着くと2度でした。しかも一昨日のあの大雪。三寒四温なんていうなまぬるい表現ではおさまりきれない日本です。御自愛くださいませ。


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by woody-goody | 2012-03-04 05:48 | 列島各地


立川志の輔のエッセイ(毎週金曜日毎日新聞に掲載)


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