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迷信に生きる祖母

 迷いながら信じる、迷信ってなんでしょうね。

 私は家庭の事情で、親代わりでもあった爺ちゃん婆ちゃんに大事に育てられました。

 婆ちゃんはことあるごとに、子供にとっては意味不明のことを言いました。

 居間の真ん中にあった火鉢の炭を火箸でいじるたびに「火遊びをするとおねしょをするぞ」。

 ほかにも「夜に口笛を吹くとお化けが出るぞ」「買って来た靴を家の中で履いたまま表に出ると背が伸びなくなるぞ」「夜、爪を切ると親の死に目に会えないぞ」「食べてすぐ横になると牛になるぞ」「北まくらで寝ると死ぬ」「茶柱が立つといいことがある」「3人の真ん中に立って写真を撮ると死ぬ」「下の歯が抜けたら上に、上の歯が抜けたら下にほうらなけれぱいけない」。

 それぞれ調べてみると、なんらかの科学的根拠のあるものもあり、生活の知恵が迷信という形で伝えられたのでしょうか。

 夜になるとほのかな灯りしかなかったころ、薄暗がりで爪を切ると深爪になる恐れがあるといういましめの言葉だったのでしよう。

 真新しい靴を履いてそのまま外へ出かけるのは、その昔、身内が死ぬと出棺の際、棺桶をかついだ人たちが家の中から草履を履いたまま外へ出ることを連想させたからだそうです。

 少しでも背が伸びて、お兄ちゃんやお姉ちゃんを追い越したいと思っていた子供の思いにくっつけていましめの言葉にした智恵。

 ここで、迷信を思い出しながらハッと気づいたことがあります。

 迷信を思い出すたび、言った婆さん、言われた自分、そのころの情景を思い出していたことに。

 人が死ぬと、今度は人の思い出の中に生きる、とはこういうことなのか。

 考えてみれば、実際に生きている人より、すでにあの世へ逝った人の方が私の中では生きているということもありうるのです。

 爺さん婆さんの口癖を思い出すたび、私の中に生き返るひととき。

 幼い頃は、わけのわからない迷信を聞かされるたび「うるさいなあ、そんなことあるわけないだろ、年寄りは科学的じゃないからしょうがないなあ」と反抗していたものでしたが、この年になってもみごとによみがえるということは、これは先祖を思い出させるメカニズムの一つなのかもしれません。

 迷信、偉大なり。

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by woody-goody | 2009-11-27 05:35 | 社会

ピンクの公衆電話

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晩秋の宵、カウンターに10人も座れぱいっぱいという落ち着いた居酒屋に入りました。

打ち合わせ。

ふと見ると、ピンクの電話が目に入りました。

懐かしい……。

店主が言うのには、緑やグレーの電話機に替えるのも面倒なのでそのままにしておいたら、今では店の名物になり、年配者は愛おしい目で眺め、若者はピンク色にびっくり、かわいい!と叫ぶのだそうです。

 打ち合わせもそこそこに、電話の話題で大盛り上がり。

 初めて家にダイヤル式の黒電話がやってきたのは、私が小学校6年生のころでした。

 茶の間にでんとすえられたテレビの横に、仏様のリンのように座布団まで敷かれて鎮座ましましていました。

 3分10円という料金そのものは今とさして変わりませんが、当時としてはそれはそれは高額でした。

 電話は、大人たちがよほど緊急で重要な話をするときに使うものと決まっていました。

 子供が使うなんてとんでもない。

 電話機は居間にあったので、話の内容は家族全員が聞いていました。

 ですから、電話をかける際も「あらかじめ用件を整理してから電話しろ」「そんな話は学校でできるだろ」とさんざん小言を言われるのが常でした。

 ある夜、翌日の遊びの約束をとりつけたくて、家族が寝静まったころを見はからい、忍び足で電話に近づきました。

 ドキドキしながら憤重に慎重を重ねながらそおっと受話器をあげたとたんです。

 チーン!

 物音一つない闇夜に響きな音。

 そう、昔の電話は受話器を上げただけで音がしたのです。

 しまった、と思ってももう遅い。

 「なんだ?どうした?」ふすま越しの二つの部屋から家族が起き出し、こっぴどく叱られたのは言うまでもありません。

 あのころ、電話をかけて最初の言葉は「もしもし、○○さんのお宅ですか?」でした。

 だって、誰が出るかわからないのですから。

 いまなら「いまどこ?」ですむのに。

 急にピンクの電話で誰かにかけたくなりました。

 「おやじさん、10円玉にくずしてくれる?」

 「あ、でもこの電話からは携帯にはつながりませんよ、こめんなさいね」 わざとそういう契約をしていないそうです。
 
 でも、こんなお詫びを聞いたとたん、世間から隔離されているような、誰も知らない空間にいるような気分。

 電話一台のことで、こんなに盛り上がれる不思議さよ。
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by woody-goody | 2009-11-20 23:00 | 社会

必殺仕分け人

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 国家の予算削減がこのような形「事業仕分け」でなされるようになると、誰が予想したでしょう。

 体育館に、役人や一般傍聴者、インターネツトカメラが入り生中継。公明正大に予算がつまびらかにされていく。とにかく新鮮、はっきり言って溜飲が下がる思いです。

 法的強制力はないので、もちろんこのまま進めていけるわけじゃないらしいのですが、ただた習慣になっていたような、なんだかわからないまま決定されていく予算取りが、そうはいかない、みんなで決める、というスタイルになったこと、政権交代の証し、まさに時代が動いてる感覚が伝わることは、とても価値のあることだと思います。

 まるでレベルは違いますが、実は私もむかし、アルバイトで「仕分け」をしたことがあります。

 会計事務所に届くダンボール箱には企業の領収書がいっばい詰まっています。

 これをテーブルの上に広げ、一枚一枚、課目別に仕分けていくのです。

 交通費、通信費、交際費、人件費、福利厚生費、消耗品費、など細かく分けて、それを今度は日付順に台紙に貼っていきます。

 当時は、学生で、少しでも楽しく楽をしたい無責任なアルバイト感覚。

 根っからのおしゃべりですから、黙ってコツコツなんてできるわけがない。

 男子学生3人でああだこうだとにぎやかです。

 「おい、このワイン代の領収書は何費?」

 「それは接待交際費だろ」

 「でも2千円だぜ。プレゼントにしては安いだろ」

 「いいじゃないか、2千円だってうまいワインはあるだろ」

 「でも、プレゼントはスーパーじゃ買わないだろ」

 「まあ、家族で飲んだんじゃないか?その領収書がまぎれこんだってやつだよ」

 「じゃあ接待交際費じゃないだろ?」

 「アルバイトなんだから深くは考えないの!早くしないと、また怒られるぞ」

 「いやいや、俺の目はごまかせないぞ。なにしろ俺は必殺仕分け人だからな、ははは」

 領収書一枚で盛り上がり仕事になりません。

 当然、早々とクビになりました。

 当時、落語研究会にいたので、「紙屑や」という落語語に出会い、まさにこれだ!と思いました。江戸時代に若旦那が紙屑を仕分けしながら気持ちはあらぬ方向へいく落語です。

 当然、この若且那もクビになったでしょう。こんなのと違って、「事一業仕分け」に課せられた責任重大。

 今に役人も納得できる「仕分け人」の「仕分け」をする人が必要になるのでしょうか。

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by woody-goody | 2009-11-13 19:06 | 政治

弟弟子、立川文都を悼む

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弟弟子立川文都があの世へ旅立ちました。

一緒によく飲み、よく遊んだ仲でした。

 最初の出会いは、1984年、上野本牧亭。

 私の勉強会の楽屋に突然現れ、「あのー、談志師匠に入門したいんですけど、どうしたらいいんでしょう?」と明らかに関西のイントネーション。はたして江戸落語を喋るにあたって、どうなんだろう、と心配になったのを覚えています。

 師匠談志の自宅と、入門願いのタイミングを教え、翌月には、関西弁の落語家がー人誕生しました。

 前座名はそのまま「立川関西」。二つ目に「談坊」、真打ち昇進とともに「文都」という名を襲名。

 観客を包む柔らかい話芸はは仲間の噺家が羨むくらいでした。

 「東京でもない、大阪でもない、日本中に通じるソフトな言葉で独自の落語をめざす」と精進を重ねてました。

 5年前には一緒に四国お遍路の旅に出ました。

 八十八カ所中、彼はすでに五十五カ所目まで歩いていたのに、私に付き合ってまた一番目から一緒に歩いてくれました。自分に「なんでやねん」とツッコミを入れながらも、心から優しい男でした。

 まわりに陽気に気を使いながら、二人になると「なあ、アニさん、これからどないしたちええと思う?」といつも落語の方向性を模索していました。

 日曜日のタ方、NHKラジオでパーソナリティーをつとめ、それを私は小学生の息子を風呂に入れながら聞いていたものでした。

 たまたまカーラジオで耳にした師匠談志が「おー、こいつ、いいじゃねえか、誰だ?」とそこにいた前座に問い、談坊だと知ると、のちに本人に直接「あれはいいです!」とほめてくれたそうで、それはもう満面とろけるような笑みで話してくれ、こちらが羨ましくなるほどの喜びようでした。

 かかってくる陽気な携帯電話の裏に、50歳で壮絶に胃癌と闘う姿がありました。

 「アニさん、癌の宣告って、ドラマみたいのとぜんぜんちゃうねん。検査が終わって、病院の売店で週刊誌を立ち読みしてたら、先生に後ろから肩たたかれて、家族呼んでください、みたいなもんですよ。全然劇的やあらへん」

 なんとか最期まで芸人らしく振る舞おうとした彼。

 昨日、彼を囲むはずだった津田沼の落語会が、偲ぷ会になってしまいました。

 「ヘヘ、びっくりした?ちょっと嘘ついてましてん」と楽屋に現れ、得意の「壷算」を始めるような気がしてならない。

 そうか、もう文都はいないのか。

 お世話になった円楽師匠に挨拶して、あの世で落語会でも企画してるのかー?

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by woody-goody | 2009-11-06 22:42 | 芸能


立川志の輔のエッセイ(毎週金曜日毎日新聞に掲載)


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