カテゴリ:芸能( 75 )

日本芸能の底力

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 世界遺産にもなった文楽が大阪市長発言でにわかに評判になっています。

 文楽と聞くと、だまっちゃいられないそのわけは、05年に下北沢本多劇場で文楽と共演したこともあるからです。共演などとはおこがましいのですが、私が落語「猫忠」を高座にかけ、途中で舞台が突然文楽のシーンに変わるという仕掛けでした。浄瑠璃を語るのは、不詳この私。すいません。100人弱しかいないという文楽の方々をほぼ20名もお迎えし、前半は落語、猫が人間になりすましたいきさつを告白し出すと、猫の文楽人形が登場。数少ない人形制作の方につくってもらった貴重品です。

 親猫と子猫の別れの場面では、天井から雪をふらせ、涙を誘いました。人形だからこそ表現できる、感情の純化。表情がなくともお客様のそれぞれの頭の中に、今までの人生の中から抽出された切ない別れが人形にオーバーラップされたのでしょう。

 もちろん、「八百屋お七」を文楽のみで見せる本格コーナーも設けました。

 先日、弟子の志の春が、世界中のパフォーマーが集まったイベントで、英語で落語を披露したところ、会話だけで筋が運んでいく落語という形式に注目が集まったそうです。

 能にいたっては、木でできた能面にもかかわらず、泣いてるように見えたり笑っているように見えたりします。お客様のイマジネーションにゆだねられて育ってきた日本の芸能の底力。

 実に微妙な感情をお客さまはそれぞれに感じ取ってくださるのです。

 文楽は、大阪本場の芸ということで、大阪には国立文楽劇場という専門の劇場もあります。

 この専門劇場では残念ながらお客様は多くはなく、隔月で東京三宅坂の国立劇場で行われる公演は、私もよく見せてもらうのですが、毎回完売です。

 友人の人形遣いが電話で言うには、市長発言騒動で、先月の「曽根崎心中」1カ月公演が満員になった、とは皮肉なこと。結果はオーライということか。

 いままでの文楽ファンと、それじゃあ一度見てみようと思った文楽デビューのお客様が集合したのでしょう。

 私の落語と人形浄瑠璃とのコラボ「猫忠」は、もう二度と実現しないでしょうが、文楽人口のパイを大きくする企画が求められているのかもしれません。

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by woody-goody | 2012-10-12 12:27 | 芸能

DVD「キッチュニア」

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 落語のオチが終わって頭を下げる。拍手をいただきながら幕も下がり、さて鳴りやまぬ拍手にふたたび幕をあげてお客様に御あいさつ。そのときにこんなことを言ったりすることも……。

 「これからも、この会場で行われる落語にどうぞお出かけくださいませ。笑うと本当に体にいいんですよ。でも、笑わせてる側は、体には悪いらしいんですが……」

 これはジョークですが、そう言えば、普段の私は心の底から笑うことは少なく、意外とシビアーな私生活を送っています。

 そんな私が久しぶりに心の底から笑ったのは、キッチュこと松尾貴史さんから送られて来たDVD「キッチュニア」。

 いやあ、涙を流しながら笑いました。

 プロを笑わせるDVDおそるべし。

 キャッチフレーズにはこうあります。

 「世界の後ろ暗い場所にあるという架空の街『キッチュニア』。そこで起こる、俗悪でいんちきな事件や出来事をスケッチしたインターFMでのコント番組のDVD化」

 私の知らないところで、金曜日の深夜、ネットでも聴けるラジオ番組で、こんな面白いものをひそかに楽しんでた人がいたのか。

 キッチュと言えば、20年以上前、テレビ番組「朝まで生テレビ」をパロディーにした「朝までナメてれば」のビデオ作品に笑わせてもらったので、いまさら、何役もこなすのには驚かないのですが、主演どころか、企画・総合演出までしてるとは。

 いま、日本はのっぴきならない状態に陥っています。その日本をまたもや、新たな方法で斬るブラックコメディー。

 同時発売の3巻にはこんなタイトルがついています。「何故、安全神話は崩れたのか?」「騙されない為の17の処方箋」「愛すべき懲りない人々」。原発問題、役人の体質、老後問題、今の日本が抱える多様な問題をシニカルに笑い、鋭く毒を吐く。このセンス。内容に即した見事なブキカワイイ(不気味でかわいい)アニメーション。

 いきつけの下馬のバー「クローズド」で、ここのところ一緒に酒を飲む事もないのを残念に思っていたところ、画面でうれしい出会いができました。

 ではこの秋、今度は私がキッチュを笑わせる落語DVDをつくる側にまわりましょう。乞う、御期待。

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by woody-goody | 2012-10-05 11:30 | 芸能

六代桂文枝襲名披露

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 桂三枝改め六代桂文枝襲名披露興行がスタートしました。

 名古屋御園座の昼夜公演に私も参加させてもらいました。

 満員のお客様を前に、きん枝師匠、ザ・ぼんちのお二人、柳亭市馬落語協会副会長、桂三幸さん、桂文昇さん、と一緒ににぎやかに3時間。

 口上に並びながら、まことにめでたい席にいられる喜びとともに、浮かんでくるのは昨年他界した我が師匠、立川談志のこと。

 さぞやこの場にいたかったろうなあと。

 昨年の1月、談志を見舞うと「昼間、三枝が見舞いに来てくれたんだ」とそれはそれはうれしそうに話し始めました。

 「文枝を襲名するべきかどうか悩んでいたから、言ってやったんだ。三枝のままでいい、と。だからあいつは文枝にはならないよ」と。

 その翌月だったか、スポーツ紙に大きな見出しが出ました。

 「三枝、六代文枝を襲名」

 次に談志を見舞いに行くと「文枝を襲名することに決めたらしい。祝いのファクスを送っておいた」とのこと。

 内容が気になりながら、その場で聞くわけにもいかず、後日、文枝師匠御本人に教えてもらいました。

 ファクスの文面は「勝手にしろぃ」。

 いかにも談志らしい愛情表現コメント。

 文枝師匠の活躍は八面六臂なのは言うまでもなく、でも案外知らない人もいる地道な活躍をここで御紹介したく思います。

 岐阜県岐阜市で行われている「全日本学生選手権」。来年10周年を迎えるというこの会は、落語の祖である安楽庵策伝(さくでん)ゆかりの地、岐阜で落語好きな若い人たちの才能を育てようという文枝師匠の熱き思いと発想から生まれ続けられている会です。

 優勝者には「策伝大賞」が贈られるのですが、1回目は29大学の申し込みだったのが今年は53大学の応募、参加人数は76人から288人。決勝大会はNHKの総合放送で放送されるまでになりました。このたびその岐阜市から文枝師匠は「笑いと感動のまちづくり」推進への貢献として「岐阜市民栄誉賞」も受賞されました。

 以前から、落語の将来も考えた行動は一貫したものでした。

 実はついでに(笑)私にまでも贈られたのでした。わーーーーとうれしいのですが、照れくさくて、なかなか公の場では言えないので、この場を借りて岐阜市と文枝師匠に感謝申し上げる次第です。

 本当にありがとうございましたー。

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by woody-goody | 2012-08-03 12:00 | 芸能

心しみる多喜雄節

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 民謡歌手の伊藤多喜雄さんに初めて出会ったのは、私が落語家になってすぐの頃、30年前のことでした。

 演芸プロデューサーの木村万里さんの紹介でした。なんで、俺、民謡歌手と会うんだろう?と思いながら、指定された新宿の居酒屋に行きました。

 初対面にもかかわらず、乾杯とあいさつもそこそこに、私は、それまで抱いていた民謡に対しての失礼なイメージをしゃべり、多喜雄さんは多喜雄さんで、落語に対するつまらなさについてかなりのことを述べました。

 早い話が、あまりいい思い出の初対面ではなかったと記憶しています。

 それが、本牧亭の独演会ゲストや、二つ目昇進披露独演会の打ち上げ、真打ち披露パーティー、月に1回10年続けた新宿の独演会ラストのロビーで歌ってもらったりと、なにかにつけてお世話になってきました。

 御本人いわく「民謡界のアウトロー」として、常に斬新な民謡を世に送り続け、紅白歌合戦には2度出場、見事な多喜雄節を聴かせてもらいました。

 先日、その多喜雄さんと、岩手県の野田村と久慈市でライブを行ってきました。

そこは、やはり東日本大震災で大きな被害が出たところで、多喜雄さんのお姉さんの嫁ぎ先という縁で、震災以来ずっと支援を続けているそうです。

 昼に野田村、夜は久慈市で、大勢の方が多喜雄さんの民謡に酔いしれました。

 圧巻は、会のエンディングで多喜雄さんのソーラン節にあわせて、地元の中学校の生徒50人が踊る「よさこいソーラン」。

 ステージの袖で見ていると、涙で彼らの姿がぼやけてきました。

 そのあと、休憩をはさんで落語を。普段と違うここでしか味わえない格別な笑いの波が押し寄せました。

 その笑いの渦の中に私自身もいることが本当にうれしかった。

 一日が終わり、打ち上げで「たいしたものはございませんが」と出された地元で取れた新鮮な魚の数々も格別。

 移動の際に主催者の方がこっそり教えてくれた多喜雄さんの支援ライブ、「えっ!」と驚くような救援物資のこと、書きたいけれど、たぶん、多喜雄さんはのぞんでいないと思うので控えます。

 つくづく、こういう心の底からわいてくる思いが多喜雄節の元になっているのだなあと思いました。

 「国民の生活が第一」とあたりまえのことを声高に叫ばなきゃならないような政治家の皆さんも、どうぞ思う存分、頑張ってください。

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by woody-goody | 2012-07-13 11:45 | 芸能

明るい病院便り

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名古屋公演で、志の輔版「中村仲蔵」(歌舞伎役者が苦労の末に大成功をおさめるという落語)を高座にかけようと、長唄連中と打ち合わせの時でした。携帯が鳴ったのは。

 「ねえ、医者がね、笑った方がいいって言うからね……」

 なんと、中村勘三郎さんの声でした。

 「志の輔さん、あなたのCD、どこに売ってるの?」

 先日、食道がんが発覚したばかりの人の声とは思えない。

 「すぐにありったけをお届けいたしましょう」と答えたのはもちろんのことですが、声もしゃべり方も、相手を気遣いながらあくまで陽気に振る舞う舞台人、歌舞伎の現在も未来も背負った男の存在感をあらためて感じました。

 がんだとわかったときのコメントも「誕生日会でどんちゃん騒ぎをした後のことなので、私自身も大変に驚いちゃいました」と、さわやかと形容したいような軽くて明るいものでした。

 食道がんは早期発見だったとはいえ、手術に立ち向かう勇気は大変なものだと思います。とにかく年内いっぱいは休養とのこと。

電話の後、ちょうど、歌舞伎で裏方をつとめる鳴り物の方々と、勘三郎さん話に花が咲きました。平成中村座ロングラン公演の大成功をおさめた後の誕生日会、喜びが目に浮かびます。そのどんちゃん騒ぎに参加していたツケ担当の人もその場にいて、勘三郎さんのすごさにみなでガッテンしたのでした。

 勘三郎さんより少し年上の高田文夫先生は、さらに上をいく明るさ。

 「二カ月間の御無沙汰でした。覚えていますか? エスパー高田です」。お休みのラジオ番組で、リスナーに向けて読み上げられたメッセージです。

 「ちょいと談志師匠の最後を見送りに行ったら、深追いし過ぎて、松村君と同じ心肺停止です」

 リスナーを裏切らないこの姿勢。

 「病気ぐらいでは人間変わりません」

 「毎日笑える幸せをかみしめながら、リスナーと二人三脚で、いただいた大切な命を大事に使ってまいります」と締めくくり、スタジオの松村君と西田敏行さんに「俺たちより元気なんじゃない?」と言わせるほど。

 年内復帰を約束しながら、リスナーやスタッフやまわりに対する気遣いの手紙に笑いながら心丈夫になりました。

 そうそう、勘三郎さんも「談志さん、俺を呼び過ぎだよー」と。

師匠、そちらで寂しいのはわかりますが、仲間を呼ぶのはまだまだお待ちくださいませ。

 さあ、来年は復帰復帰で大にぎわいの年になりますよ。

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by woody-goody | 2012-07-06 14:26 | 芸能

師匠の談ディズム

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 もう28年前のことになります。師匠談志に入門して1年経ったある日のことでした。

 練馬にある師匠の自宅で、ともに前座修行をしていた兄弟子が突然「俺、落語家やめるわ」と言い出しました。 

 その場にいたまだ20代だった私と他の前座3人は唖然。確かに、その兄弟子の前座修行は身が入っていないように見えましたが、喋りにセンスがあったので、いま辞めるのはもったいないんじゃないかという声も出ました。

 しかし、兄弟子の決心は固く、これから談志にそのことを告げる覚悟だと言います。しかも「師匠談志のところを辞めて、たけし師匠のところに行こうと思ってるんだ」

 たけしとはもちろんビートたけし、北野武さんのことです。

 これも師匠に話すと言うので、ただ辞めるでいいんじゃないか、どうしてわざわざよそへ行きたいと告げねばならぬのか、と全員で止めたが「だって、その方が行きやすいから」というなんだかよくわからない答え。

 兄弟子が師匠談志のいる書斎へ向う。

 私たち前座4人は、漫画のヒトコマのように隣の部屋のドアの隙間(すきま)から顔を並べてドキドキしながら事態を見守った。

 机に向かって原稿を書く師匠。

 机越しに正座した兄弟子。

 「師匠、辞めようと思うのですが」

 「辞めたいのか。辞めてどうするんだ?」

 「はい、たけし師匠のところに行こうと思います」

 「たけしの弟子になりたいってのか?」

 書斎の空気が凍り付いた。

 師匠の椅子の後ろには大きな書棚が並び、本と一緒に並ぶ高級な洋酒。

 後ろ手にその中の1本、オールドパーの瓶の首根っこを右手で握ってさかさまに持ったのを目撃したときは、あ、兄弟子は殴られるんだ! と覚悟した。

 と、師匠は机の上にあった名刺をセロテープでボトルの正面に貼り付けて言った。

 「これを持ってたけしのところに行きな。これをもらったらお前の申し出を断れないだろうから」

 事態をうかがっていた私ら前座全員は崩れ落ちた。

 その後、言われた通り洋酒を持ってたけし師匠に入門した兄弟子は大活躍。ただしもらった芸名がフンコロガシ。が、談志の許しを得て芸名だけは元のダンカンを名乗った。


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by woody-goody | 2011-12-09 13:05 | 芸能

師匠談志からの洗礼

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 まったく実感のないまま、亡き師匠について取材を受けている自分が不思議です。

 いつ突然、「ああ、来てくれ」と電話がかかってこないともかぎらない、と待機してるような毎日です。

 弟子入りしなければ決して体験できなかった、天才との思い出、まずはエピソード1。

 あれは、入門して3カ月した頃、師匠談志を助手席に乗せて運転していました。「急いでくれ」と言われた私は思いっきりアクセルを踏み込みました。予想通り、後ろからやってきた覆面パトカーのスピーカーから「前の車、側道に止まりなさい」。

 で、停車。

 「師匠、すいません。スピード違反してしまいました」

 「わかった。明日、俺がなんとかしてやる」

 どうするんだろ?

 翌日、師匠が言いました。「知り合いの偉い国会議員がいる。元防衛庁長官だ。それに頼んで、その違反だかなんだか知らないが、元にもどしてもらうから心配するな」

 師匠の案内する所まで行くと「ここがその議員の事務所だ。お前の免許証と違反の切符を持ってこいってことだから」。私からそれらを持って建物の中に消えていきました。1時間後、出てきた師匠は「大丈夫だ、処理してもらったから」。

 ところが2週間後、「免停の通知書」がしっかり届きました。

 師匠に「すいません、警察から免許停止の案内が来ましたので、師匠の送り迎えにちょっと差し支えが出ますので」。

 「じゃあなにか、処理されてなかったのか?」「そういうことになります」「冗談じゃない、電話してやる」とその場で元防衛庁長官の事務所に電話。「ああ、談志ですが、ああ、秘書君かい、あの例の弟子のスピード違反の件だけど処理してくれたんだよね。ん、ん、ん、ん」

 あまりよくわかっていない師匠に、罰金は払ったものの点数を引かれるのが困ると告げると「点数を元にもどしてやってくれ。頼むよ。えっ? できない? なんで? コンピュータに入っちゃったからだめだ? そこをなんとかしてくれよ」

 最後に吐き捨てるように放った言葉がすごかった。

 「議員が帰ったら言っておけ。元防衛庁長官が、スピード違反ひとつもみ消せなくて、国が守れるか」

 師匠の前で思わず私は声をあげて笑ってしまいました。

 入門して私が受けた「天才からの洗礼」一つ目でありました。


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by woody-goody | 2011-12-02 13:11 | 芸能

「粋」って何?

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 ある映画を見て、あらためて「粋」ってなんだろうなと考えました。

 たとえばこんな話。素敵な真っ白の着物で吉原に通い続ける男がいました。花魁は、この男が毎日同じ着物だとしたら貧乏くさいし不潔で嫌だな、と確かめることにしました。

 白い着物の隅に小さく赤い糸を目印につけてみたのです。

 翌日、赤い印はついていません。あら、糸がとれてしまったのかしら?と思っていたところ、7日目に赤い糸のついた着物で現れました。そうか、この男は7枚も同じ着物を持っていたんだわ、なんて粋な人、と惚れなおしたんだそうな。

 この話って、なんだかなあって感じですが。

 私が明治大学落語研究会に入部し、落語に出会い、ショックを受け、連日の寄席通いを続けながら先輩に「落語の魅力のポイントは?」と尋ねたところ「江戸っ子の粋な生き方だよ」と言われ、さらにわからなくなりました。

 「相手に見返りを期待しない、やせがまん」と答えてくれた人もいます。

 自分が粋だと思い、相手も粋だと感じてくれる場合はいいけれど、きっとそうじゃない場合の方が多かったんじゃないでしょうか?

 でも「見返りを求めない」精神から言うと、それこそが粋な状態なのかな。

 江戸の人たちが宣言した粋の美学は、自分たちを生きやすくする方便でもあったんでしょうね。

 見た映画は「ハラがコレなんで」。監督は「川の底からこんにちは」の石井裕也さん。

 この映画に登場する臨月の原光子(仲里依紗)はなにかにつけて「粋」を連発します。

 はらんだ子供の父親もしかとわからず、そうじゃないかと思う元カレは行方知れず。お金もなく追いつめられた彼女が向かった先は昔住んでいた長屋でした。

 優しすぎるためにパッとしない住人たちが陥った困難を解決すべく一肌脱ぐ彼女がことあるごとに口にするのが「粋だね」「それじゃあ粋じゃねえんだよ」

 こんな場面で粋という言葉は使わないだろうとツッコミながら見るうち、彼女のペースに巻き込まれてる自分がいました。彼女が信じる「粋」に寄り添おうとしている自分がいるのです。ああ、こういう説明してること自体が粋じゃねえのかなあ。とにかく、抱腹絶倒、しのごの言わずに見てやってくんねえ。

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by woody-goody | 2011-09-16 13:21 | 芸能

「牡丹灯籠」放送怪談噺

 大阪で久しぶりに3日連続公演でした。

 今年の冬、東京渋谷パルコ公演で高座にかけた新作落語「大河への道」を、どうしても大阪のお客さんにも見せたいと、夏に呼んでもらったのです。

 大阪でいつも思うのは、お客様の集中力、クオリティの高さです。最後の拍手は、なんというかこの、塊のようになってどーんと舞台に押し寄せてくる感じなのです。

 演じ終えた後の達成感、満足感、苦労したあれやこれやが一挙に吹き飛ぶ感じ。

 最終日にみえたお客様の一人が突然「昨日はひどかったですね…」と。本人は、昨日は昨日でそれなりのできだったと思うし、お客様にも喜んで帰ってもらったはずだし、と戸惑っていると、「WOWOWの放送ですよ」と言われて思い出しました。先週の金曜日は、本多劇場公演を去年収録した「志の輔版・牡丹灯籠」をWOWOWで放送する日だったのです。

 でも、そんなにできが悪かったとも思えないし、ひょっとしてそのお客様との相性が悪かったとしても、本人を目の前にしてそこまで言うか、と思いよくよく聞いてみると、放送トラブルが起きたようなのでした。

 WOWOWから届いた詫び状の一部をそのまま掲載すると「8月26日(金)夜7:20から放送いたしました『志の輔らくご「牡丹灯籠」2010』におきまして、不手際によりテープの順序を取り違えて放送してしまいました。途中からもとの順序に戻して放送いたしましたが、番組の前半部分はご覧いただくことができませんでした。視聴者の皆さまには、ご迷惑をおかけいたしましたことを深くお詫びいたします。あらためて9月2日(金)夜6:00から、10月15日(土)夜9:00から、10月30日(日)朝7:20から、と3回の放送を予定させていただきます」

 演出上、前半と後半に分けて作っていた「牡丹灯籠」が逆に放送されたらしいのです。

 まるで現代の怪談噺です。御覧になった方々に私からも深くお詫び申し上げます。一番がっかりしているのは当人です。下北沢本多劇場で5年間もロングランを続けている公演、楽しみに録画していただいてる皆様、再放送の方を録画しなおしてくださいませ。

 お客様の機械が故障したわけではありません。事情の御報告と心底からのお詫び、そしてお知らせでございました。

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by woody-goody | 2011-09-02 12:12 | 芸能

大河への道

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 さて本日から7月に突入、いよいよ本格的に夏がやってまいりました。

 そして、今日からテアトル銀座にて「志の輔リバイバル」舞台5日間が開幕します。

 変わったタイトルですが、このわけは、内容が今年の渋谷パルコ劇場1カ月公演「伊能忠敬の物語、大河への道」がありがたいことに、わたしの中だけでなく、好評だったものですから、ぜひ再演をと、この機会を与えていただいた、ということです。

 考えてみれば、落語は、繰り返しの芸だと言えます。

 何百年という時間、繰り返され、いろんな演者の高座にかけられることによって磨かれ無駄のない話芸に昇華されてきた落語。

 落語にあまり触れたことがない方々には不思議に思われるでしょうが、何度も聴いてる話をまた聴く、それでも面白く感動できたりもするのです。

 それは内容もさることながら話芸そのものを楽しむ娯楽だからなんでしょう。

 これは歌にしても同じことが言えて、繰り返し笑え、繰り返し感動できる芸能の特典です。

 でも、今回、もし古典落語なら「リバイバル」という言葉は私の頭の中には浮かばなかったことでしょう。

 新作だからこそ、ひらめいたんですね。

 いつもはお芝居が中心の劇場でやる公演。

 再演だからリバイバルだな、と。

 お芝居なら、再演の際は、出演者が変わったり、演出が変わったりということがありますが、演者は一人。変わりようがない。でも、一人であるからこそできること、それは物語に出てくる登場人物をいかようにも演出できること、人を増やしても減らしても、キャラを変えるのも自由。

 それに、大変に悲しいことですが、伊能忠敬が歩測で測量した三陸海岸を含む東日本は、このたびの津波で形を変えざるをえませんでした。

 さて、どうするか。

 いったい舞台がどうなるか読めずにやみくもにドキドキしながら開幕した正月公演のような興奮を演者としてどう蘇(よみがえ)らせるか、今はそれのみに集中しています。

 で、ふと「リバイバル」という言葉を辞書でひいてみたら、「一度すたれたものが見直され、再びもてはやされること」ですって。

 あれ、思ってた意味が違う。

 もてはやされたと言うのも大げさですし、すたれてもいないよなあ。

 ま、再演ってことで、よろしくです。

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by woody-goody | 2011-07-01 23:59 | 芸能


立川志の輔のエッセイ(毎週金曜日毎日新聞に掲載)


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