カテゴリ:社会( 220 )

マイカー雪の日心得

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 テレビ局の廊下で、見知らぬ人の大きな話し声が。「昨日の夜、わざわざ近くのガソリンスタンドまで行って、履き替えてきたんだよ、スタッドレスに。それが朝起きたら子供が、パパ、雨だよっていうんだよ。ガッカリだよ」。気持ちはわかるけど、予想はずれてよかったじゃん。

 これを機会にもう少しそのままスタッドレスを履かせておいた方がいいと思うよ、とテレパシーを送っておきました。

 成人の日の大雪で懲りたJRは70%の間引き運転。雪は降らなくても、交通規制でかえって混乱。

 成人の日に、通常なら4000件だった出動要請電話が7万4000件あったというJAFは、5日は増員体制で準備。

 ところが今度は、肩すかし的な結果にマスコミはまた騒ぐ。

 故郷富山の友達は電話の向こうでまた笑います。「たかが1センチの雪で東京はなんしとるが?」

 たしかに、雪国を含めた全国にこの東京のニュースが流れているわけですから。

 年が明けて2カ月しかたっていないのに、雪について2回もコラムを書くことになるなんて。

 成人の大雪の日以来、私は会う人ごとに個人的にアンケートをとっています。「マイカーを持つあなたはスタッドレスタイヤをお持ちですか? 持たないとしたらなぜですか?」

 現時点で、総数32人に実施。内訳は、テレビ関係者12人、演劇関係者8人、落語関係者4人、一般人8人です。

 集計結果は、スタッドレスタイヤ自宅保有者2人、ガソリンスタンド契約者3人のみという惨憺たるありさまに。え、こんなもん?

 私のまわりに限っているので数字に偏りがあることは重々承知していますが、それにしても。

 私が雪国育ちだからこの結果に驚いてるだけ?

 スタッドレスを用意しない理由を問えば「東京ではめったに雪は降らない」「雪の日は車に乗らなければいいから」。

 でも、出かけた先で降られて、そろそろと車を走らせ、この1台のノーマルタイヤが道路の大渋滞を起こすんですから!

 そうか、こうなったら、道徳に訴えるより、取り外しやすくて保管場所がいらないアイデア商品が生まれればいいわけか。

 知恵者の多い日本、なんとかなりませんか。

 求ム、女性でも簡単に取り外しとセッティングができる雪の日仕様タイヤ装着グッズ。

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by woody-goody | 2013-02-08 12:41 | 社会

改暦、明治の大英断

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 いよいよ明日!がパルコ1カ月公演の最終日。

 泣いても笑っても今日と明日の2回で終わり。

 50歳代、月日に比例して体力の変化を感じ続けた8年間でもありました。

 特に、今回の新作落語のテーマが月日の不思議を探った「旧暦」であったことも感慨を深くしている理由でしょう。

 毎年、正月なしでひた走ってきましたが、旧暦で言うと2月10日がお正月。沖縄では、1月1日よりも旧正月の方をよほど大事に祝っていると聞きました。

 私も、旧暦で年の初めを祝おうかな。

 自然の摂理にのっとった旧暦の方が体の自然にあっているはず。

 さあ、もう新作落語の内容を言ってしまってもいいでしょう、タイトルは「質屋暦」としました。

 明治5年12月3日をいきなり明治6年の元日にした政府の大英断、突然の旧暦、新暦、改暦に際して起こる庶民の騒動。

 これを実は毎日新聞社の社長さんが見に来てくださいました。

 で、こんな面白いお手紙をいただきました。

 「毎日新聞社は明治5年の2月21日に東京日日新聞として創刊しました。昨年は140年の感謝の集いも行いました。大隈重信は大正期の印象が強く、明治初期に赤字財政克服のための突然の改暦を断行したとは、頭から抜け落ちていました。今年も2月21日の創刊記念日には紙面で特集を組むつもりなのですが、太陽暦に換算すれば3月29日になるわけですね。また資生堂、国鉄、東京国立博物館も明治5年スタートですが、記念日は新暦か旧暦かで、だいぶ日にちが違ってきますよね」などなど。

 ありがとうございました。

 実は、しゃべっている本人自身も、当初は改暦に関してよくはわからず、日々皆さんに説明するうち徐々に腹に落ちていったという感じです。

 そうだ、改暦のことをもっと詳しく調べてもらって、2月21日創刊記念日第1面の「余録」に書いてもらうってのはどうでしょう?

 「質屋暦」を聴いてもらえなかった皆様にも、同じパルコ演出は無理ですが、どこかで聴いていただけたら、と思っています。

 ダイナミックな経済の変化の期待と不安が渦巻く中、明治5年に、もうびっくりの改暦を断行したという事実。これを見事に乗り越え、おおらかに生きてきた日本人。大いに笑って肩の力を抜いて今年を乗り切るはずみがつけば幸いです。

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by woody-goody | 2013-02-01 18:21 | 社会

安部公房とわたし

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 1カ月間、どこへも行かずにずっと東京にいる恒例の1月が過ぎようとしています。楽屋に居続けの渋谷パルコ劇場公演も、8年目。

 まだこんなにあるのか、からもうこんだけしかないのか、に気持ちが変化する1カ月。

 今回も、新作を一席含めた全3席というプログラムですが、私が新作をつくるようになったきっかけは、本紙21日の夕刊でも紹介されていた、没後20年の作家、安部公房さんの存在があるのです。

 大学入学のために富山から上京、初めて見た演劇が、仲代達矢さんと山口果林さん出演、安部公房作「友達」だったのです。

 場所は、西武劇場。そう、今のパルコ劇場なのです。

 大学を卒業後に入った劇団の養成所の卒業公演も安部公房作「友達」。戯曲の意味がよくわからないまま演じた父親役。

 そして、落語家になって5年目、青山で安部公房作品の落語化という、とんでもないことを思いついたのです。

 ある日、玄関に「私は宇宙人なんですが」と若者が訪ねて来る「人間そっくり」と、ある日の夕方、いつものように会社から帰る道すがら、自分の体が、まるで毛糸がほつれていくように足下からほどけていく「赤い繭」の2席。

 面白い作品、ぜひ、読んでみてください。

 今もちゃんと理解したとは思っていないのですが、当時はもっとあやふやにしか安部公房の世界がつかめていなくて、ましてや文学作品を落語化するなどという無謀な試みがうまくいくはずもなく、多くのスタッフに迷惑をかけました。でも、でも、「志の輔らくご」が通らなければならなかった道だった、と思うのです。だって、あの不条理感を落語エンターテインメントとしてつくりあげられたとしたらすてきだとは思いませんか?

 いつかこの独特な世界を落語に入れ込めたらなあ、と。

 今回、落語家生活30周年を記念して、新作落語を中心に「志の輔らくご新作DVDボックス」を作りました。よくぞこれだけいろんな作品を作って来たなあ、と感慨ひとしお。でも、この裏には何十倍の失敗作品があるのです。成功へ導いてくれたこれらの愛しい作品群は陰の功労者。そっか、今度、失敗作品を集めてDVD作っちゃおうかなあ。自分のために。

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by woody-goody | 2013-01-25 12:17 | 社会

スタッドレス装備を

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 いよいよ今日からパルコ1カ月公演、後半のスタートです。

 先日の成人の日は、あの大雪の中、はたしてお客様、お越しいただけるのだろうかという心配をよそに、ほとんどの方がそろってくださり、本当にありがとうございました。

 落語のマクラでよく言う事ですが、私ら、お客様がいなければ、ぶつぶつ言うただの変な人ですから。

 中には、交通機関の遅れで途中入場の方もいらしたのですが、その方々はロビーのテレビモニターで最初の一席をご覧いただいたようで。

 若干の来られなかった方々には、この日が休演日だったらよかったのに、と天候を恨めしく思ったことでした。

 終演後、スタッフが驚き感謝して言うには、公演に支障が出るようなクレームが一つも出なかったこと。

 ここに、主催者、演者とも厚くお礼申し上げます。

 現時点では、今回の公演内容をテレビ放送する予定は組まれておりませんが、この雪のトラブルもあったため、なるべく放送できるようにしたいと思っています。

 その際はこのコラムでお知らせいたしますので、よろしくお願いいたします。

 それにしても思うのは、都会の方々が雪道でよく転ぶこと。

 富山出身の私は、たとえ革靴で歩いていてツルンと滑ったとしても、空中でみごとに体勢を整え、着地ができます。えへん。

 「ああ、やっぱり俺には雪国富山の血が流れているんだな」と納得。

 富山の友達は電話で言います。

 「はっきり言って、あれぐらいの積雪で、あの道路マヒは異常だね。スタッドレスタイヤ、履いてないんじゃないの?」

 言われてみればそうです。12月になったら、雪が降ろうが降るまいが、都会はスタッドレスタイヤに履き替えると決めますかね。

 JAFにいつもの4倍の出動要請があったといいます。たった1台、ノーマルタイヤの車が横滑りしても道路は大渋滞になるのですから。

 痛い目にあったいま、この熱が冷めないうちに、自家用車をお持ちの方はぜひスタッドレスタイヤのご用意を! 私の車は12月になると必ずスタッドレスです。

 もちろん、人間用に雪道用の長靴も買いますとも、すぐに。

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by woody-goody | 2013-01-18 18:32 | 社会

暦の歴史残す印刷物

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 あけましておめでとうの年賀状から、寒中お見舞いはがきを受け取るこのごろ。パルコ1カ月正月公演も8年目に入り、連日、渋谷で落語をしゃべっております。

 毎年新作を作るにあたってなんともうれしいのは、毎回、新しい出会いがあることです。

 一昨年は、偶然出会った千葉県香取市佐原にある「伊能忠敬記念館」のご協力を得て、4年越しで「大河への道」ができ、今年は、墨田区横網にある「新藤ギャラリー」のお世話になりました。

 いま私たちが普通に使っているカレンダーが、明日から変わる、となったらいったいどうなることでしょう。

 いつもやってくる12月がなくなっちゃったら。

 そんな暴挙がかつて日本で断行されたのです。

 明治5年に政府が改暦を発表、当時のてんやわんやをなんとか落語にできないものだろうかと思ったのです。

 その際、もし、当時の「旧暦」と「新暦」の現物があれば、話に信ぴょう性が出て面白さが倍増するんじゃないかと。

 調べるとありました。

 80年以上、製版と印刷を仕事にしてきた株式会社新藤コーポレーションさん。常に時代に先駆け、先進技術に取り組んできたこの会社の「新藤ギャラリー」が、区がすすめる「小さな博物館運動」に参加、そこに現物があったのです。

 世界最古の印刷物として知られる「百万塔陀羅尼 木製三重小塔」とその経文をはじめ、印刷機・版画絵など“印刷”にまつわる貴重な品々約30点を展示しているこのギャラリー。

 改暦のタイミングに発行された福沢諭吉の「改暦弁」も所有されており、社長さんから話を伺うことができました。

 印刷の原点を追求するうち、印刷の歴史を後世に伝えるために、昔の暦もなくてはならないものだと、古書店や骨董市に足を運び、長い間かけて集めたのだそうです。

 このおかげで今回の新作落語ができました。この場を借りてあらためてお礼を申し上げます。

 パルコ公演にお越しになれなかった方も、ぜひ「新藤ギャラリー」に足を運んでみてください。

 みんなで同じ「とき」を共有できている暦のおかげで、いかに物事がスムーズに進んでいることか。

 民間にもすごい博物館があるんですね。

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by woody-goody | 2013-01-11 18:23 | 社会

大学生発、ネガポ辞典

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 日本語の豊かさを落語のまくらでずっとしゃべってきました。

 落語は、大半が会話によって成り立っています。

 その際に、自分を言い表すのに、英語なら、アイと言うしかないのですが、日本語には、わたし、あたい、ぼく、おいら、おれ、わし、せっしゃ、などがあり、相手を指す場合も、英語のユーの一言を、あなた、きみ、きさま、おまえ、てめえ、おい、などいろんな言い方があります。

 これらのどれを選ぶかによって、登場人物の関係性がすぐにわかるようにできているのです。

 上下関係、職業の別を常に意識せざるをえない日本文化がここに表れているのでしょう。

 会話の妙で言えば、「お前は集中力のない男だな」を「お前は分散力のある男だな」と言えば、言われた方も悪い気がしない。ちょっと無理がありましたかね。では、「外車を買ったんだ」と言われるより「輸入車を買ったんだ」と言われた方が、なぜだかむっとしない。輸入車には高級な感じを減らす役割があるんですねえ。

 人間関係をスムースに運ぶ知恵とも言えましょうか。

 こういうことを考えているのは年配だけかと思っていたら、札幌の女子大生が、言い方を変えるだけで気持ちがわかる「ネガポ辞典」(主婦の友社刊)を出版しました。

 いかにも世代が違うなあと思うのは、本になる出発点は、ネットにあったということです。

 放送作家の小山薫堂さんが審査員長をつとめる、通称デザセンこと「全国高等学校デザイン選手権大会」で第3位に輝いたデザイン(企画)をアプリとしてネットで広め、それが本になったという経緯。

 ネガティブをポジティブな表現に言い換える辞典です。

 本の帯から引用させてもらうと、「自分に甘い」を「自分に優しくできている」に。

 「変態」を「ある種の知識に精通している」に。「いかり肩」を「つくりがしっかりしている」などなど。とにかく中身を読み進めていくにつれ、笑う笑う。

 なにより面白いと思ったのは、東北芸術工科大学が主催、「高校生の視点から社会や暮らしのなかから問題・課題を見つけ、その解決方法を分かりやすく提案する」ための新たな社会デザインを考える大会デザセンが年に一度行われ、受賞アイデアがネットを通じて広まり、そこから本が生まれたという過程です。

 そうそう、おじさんはこれにも参りましたよ。

 「まわりくどい」は「過程を大事にする」だって。

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by woody-goody | 2012-12-17 14:54 | 社会

五七五の川柳ごころ

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 十五夜の満月を見上げる余裕もないままに、秋から冬へ。

 ゆとりのない暮らしをしてるよなあ、とつくづく自戒の日々です。

 旅先のホテルでテレビをつけると、さだまさしさんが生放送ではがきを読みながら軽いおしゃべり。

 あいかわらず面白くて笑っていると、歌手の元シャネルズ鈴木雅之さんがスタジオに現れ、さださんからプレゼントされた「十三夜」を歌い始めました。

 この曲を作った経緯を、さださんが話しました。

 十五夜は満月、満ち満ちた状態なので、あとは欠けていくだけという切なさが残ります。

 でも十三夜はあと一息で満つるという期待感があり、それでこの曲をつくったということでした。

 沁みました。

 こういう話も思い出しました。

 松尾芭蕉が旅の途中、村の人たちが集まって句会を開いてるところに遭遇しました。

 ころは中秋の名月。

 空にはまあるいお月さま。

 芭蕉をそれと知らない村人が誘いました。

 「ああ、そこの旅のじいさん、あんたもよかったら一句ひねってみたらよかんべ」

 短冊を受け取った芭蕉は書き出しました。

 「三日月の」

 これを見た村人は大笑い。

 満月なのに三日月だってよ、俳句も知らないんだからしょうがないよなあ、とばかりに。

 その後に続いたのは「頃より待ちし 今宵かな」

 これを見た全員、ううむとうなり、座を正し、こんないい句をつくるあなたはいったい何者?と問い、最後に「芭蕉」と書かれたのを見て、さもありなん、とまたまたうなったというなんとも痛快な話。

 そんなことがあったからでしょう、本屋でふと手に取ったのは「シルバー川柳」というかわいい本でした。

 表紙を飾っているのは

 「誕生日 ローソク吹いて 立ちくらみ」

 もうこれで十分というくらい笑わせてもらいました。帯には

 「恋かなと 思っていたら 不整脈」

 「万歩計 半分以上 探しもの」

 「お迎えは どこから来るのと 孫が聞く」

 お金のかからない川柳、五七五の心を養いたいものです。

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by woody-goody | 2012-11-02 14:18 | 社会

持ち主の誤作動?

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 昨日まで赤坂ACTシアターで4日間「忠臣蔵のすべて&中村仲蔵」公演で、スクリーンに浮世絵を映す演出のため、1週間前にiPadを入手しました。

 と思ったら、一昨日、iPad mini発売開始の発表。え、今度は小さいのが出るの!?

 そう言えば、iPodを入手したあとに、シャッフルだのミニだのが出たんだった。

 私が早めに手に入れたiPodには「クラシック」なんて名前がついてます。いまに、iPadがクラシックになる日も近いかも。

 このところ妙な電話がとても多くなりました。

 電話が鳴る。画面に発信者の名前が出るので、「応答」をタッチ。

 「もしもし」と言ってみるがなんの返事もない。

 電話の向こうでがやがやと音が聞こえる。

 これはレストランだなという見当をつける。

 聞き覚えのある声の主が、私にではなく、そばにいるらしき人と話している。

 「もしもーし、おい、もう俺は電話に出てるよー」といくら言っても通じないばかりか、向こうはどんどん盛り上がっている。「カンパーイ!」だって。ばかばかしくて「なんなんだ、いったい!」と声も荒く指先に力を込めて「拒否」をタッチ。

 また違う知り合いからの場合は、どこかの駅の様子。「○○番線ホーム、新幹線が到着いたします。おさがりくださーい」と車掌さんの声が明瞭に聞こえ、ははん、東京駅だなと。かけといて出ない電話に「拒否」をタッチ。

 先日、これらの謎の電話の原因がようやく解明できました。

 敏感に反応しすぎるスマートフォンのせいなのです。親しい知り合いが「お電話いただきました。なんでしょう?」と。

 「バカ、お前がかけてきたんだよ。それもずいぶん食事会で盛り上がってたようじゃないか」「はあ? 私、かけてませんよ」「じゃあ言ってやろうか。お前が言ってたセリフ、みなさん、もうちょっと寄ってください、入らないから」「ええっ!」「お前、写真を撮ろうとして俺に電話かけてたろうが」「えーーーーーー!」。もう絶句のあとは大笑い。

 いわゆる誤作動ってやつか、いや、待てよ。スマートフォンに言わせたら「なにを言ってるんですか。私はきちんと仕事してます! 持ち主の指示の通りにしてます!」だろうけど。

 いやはや、持ち主もついてくの、大変なのよ。

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by woody-goody | 2012-10-26 12:34 | 社会

携帯音の憂鬱

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「携帯電話の着信音は、一番鳴ってほしくないときほど、鳴り出す」は、現代のマーフィーの法則のひとつです。

 先日も長野の独演会でのこと。二席目の人情噺(ばなし)のまさにクライマックスにさしかかったとき、この一言のために1時間近くしゃべってきたのに、という最悪のタイミングで鳴り出しました。高座の私は気がついてないふりをするのですが、暗闇の客席でまわりの観客の頭部が右に左に動いているのがわかります。

 まさか落語をやめるわけにもいかず、いったんそがれた気をとりもどしながらエンディングへ向かうしかありませんでした。

 なにも長野に始まったことではなく、今やこんなことはしょっちゅうです。

 できることはすべて手を打っています。

 開演前にはアナウンスで、最初の開口一番の高座では弟子が携帯のスイッチを切ることをお願いし、休憩後には、休憩中に入れた電源をオフにしていただくようにアナウンスする。

 それでも鳴るときは鳴る。

 地方へ行けば行くほどその確率は高い。

 その理由は、以前ここでも書きましたが、地方独特の「車でお迎え」事情があります。

 休憩中に、だいたいの終演時間を予測し、迎えに来てもらう時間を携帯で知らせる。

 このときオンにした携帯がそのままになり、終演間近になると「着いたぞ」の着信音が鳴るのです。

 お客様からは「大事なところで携帯音が鳴って地元の者としては大変恥ずかしく申し訳なく思います。でもこれに懲りずにまた来てください」のアンケートが何枚も。

 もうこれは、注意をしましょう、とかのレベルの話ではないのでは。

 これから新しく建つ劇場、そして既存のホールにも電波が入らない設備をつけるべきじゃないでしょうか。

 うっかり鳴らした本人もいたたまれないでしょうし、まわりのお客も腹が立ち、演者も気がそがれ、主催者も演者とお客に申し訳ながり、の誰もいいことない携帯音。

 非日常空間に浸りたいとやって来て、最後に嫌な思いで帰途に着く、ああ、もったいない。

 もはや、気をつけましょう、の段階ではなく、ホールに電波が入らなければそれでいい、それが今の時代のホールの最低条件、だと私は思います。

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by woody-goody | 2012-10-19 12:48 | 社会

動物がぶつぶつ

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 私の高座を20年間撮り続けてくれているカメラマンがいます。

 橘蓮二さん。

 師匠談志も撮られた自分を見て「これが、俺か!」という名言を吐きました。

 私も、自分のワンカットを見ただけで、どんな感情で何をしゃべっていたか、お客さんがどうだったか、フラッシュバックのようにその「とき」を思い出すんです。

 なので、橘蓮二さんは見事な高座写真を撮影する人と決めつけていました。

 ところが、事務所に届いた「どうぶつぶつ」(PARCO出版)という小型の本を見てびっくり。

 動物がぶつぶつつぶやいている写真集。

 いま、ツイッターで人間が毎日膨大な量をつぶやいてるとは知っていましたが、動物もこんなにつぶやいてるとはね。

 種明かしをすると、こちらをじっとみつめるさまざまな動物に吹き出しがついていて、そのセリフを、あのリリー・フランキーさんがつけているという写真集。

 これが、ぷっと噴き出す面白さ。

よくこんなこと思いついたなあ、と聞いてみれば、本の裏表紙に載ってるニホンツキノワグマと動物園で目があったのがきっかけだそうです。まるで人間のオッサンが酔っぱらって語りかけているかのようなクマ。ついたセリフが「あれ!? おい! あれ、江頭じゃね?」。

 一番困ったのはほとんど寝てて目線をこちらにくれないコアラ。ぼーとした姿で木にしがみつきながら「結局、会社に泊まっちゃったよー……」。

 真夏の神戸の動物園では、冷房のきいた部屋で悠々遊ぶレッサーパンダを撮影しながらシャッターチャンスを待って日射病になりかけたそうな。

 「ほーら。言わんこっちゃない」のセリフ、似合いすぎだろが。

 落語に救われたと言う橘蓮二さん、今度はひらがなのたちばなれんじとして動物写真集。

 対象物は違っても、被写体に対する愛情と敬意は失わないその姿勢が写真に写っています。

 写ってるのは落語家でもなく、動物でもなく、橘蓮二であり、たちばなれんじなんですね。

 なにかといらだつことの多い日々に、ページをめくれば、きっと動物たちに笑っていやされることでしょう。大切な方に、秋のプレゼントに最適な本です。

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by woody-goody | 2012-09-28 15:46 | 社会


立川志の輔のエッセイ(毎週金曜日毎日新聞に掲載)


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